男子テニスの香港オープンのシングルス決勝でプレーする錦織圭選手=5日、香港(ゲッティ=共同)
男子テニスの香港オープンのシングルス決勝でプレーする錦織圭選手=5日、香港(ゲッティ=共同)

 横綱照ノ富士(33)は大相撲史に残る奇跡の復活を遂げた力士で知られる。三役昇進からわずか2場所で大関にスピード出世したが、両膝のけがと内臓疾患で序二段まで転がり落ち、何度も師匠に引退を直訴した。「どうやって一日を過ごすかで精いっぱいだった」という。失意の日々を乗り越えて現役続行を決意し、不屈の闘志で横綱に上り詰めたのは承知の通り。横綱審議委員会メンバーが称したモンゴル版『おしん』との評は言い得て妙だ。

 こちらも『おしん』ぶりでは負けていない。テニスの錦織圭選手(35)である。股関節や膝、足首の負傷で世界ランクが消滅。引退が脳裏をよぎる中で情熱をともし続けた。

 今季は開幕戦で実力者を次々撃破して準優勝し、2年半ぶりにランキングを2桁順位に戻した。けがの不安なく、思い切りラケットを振る姿を見るのはいつ以来だろう。一ファンとして試合結果に再び一喜一憂できる日が戻ってきたのがうれしい。

 全盛時を彷彿(ほうふつ)させる切れ味鋭いフォアとツアー屈指の両手打ちバックハンド。本人も「誰とやっても簡単には負けない」と不敵に話す。

 2人が出場する全豪オープン、初場所はともにきょう始まる。引退の瀬戸際で自らを見つめ直し、冷静さと緻密さを蓄えた同年代の苦労人は、復活からさらなる飛躍を期す舞台を前に力みがない。多病息災は、無病息災よりときにしなやかで、ときにたくましい。(玉)