「魔女の宅急便」ならぬ「看護の宅配便」。鳥取県日野町の公立日野病院が昨年、コロナ禍を挟んで約5年ぶりに再開した看護師の地域活動の愛称だ。急がずにじっくり、寄り添う看護を-。「急」を「配」に替えたネーミングに、そんな思いがこもる。
買い物環境を守り、山あいの暮らしを支える民間の移動販売車に、看護師が週1度のペースで同行。行く先々で住民に声をかけ、近況を聞き、健康相談に乗る。高齢化率が50%を超え、独居世帯も多い地域に「安心」を届ける活動だが、取材で一緒に歩かせてもらい、少し印象が変わった。
商品を選ぶ楽しさ、話ができる喜び…。日々の暮らしで大切なものが、住民との触れ合いから「見えてきた」と小原佐智子副看護局長は言う。
その積み重ねは、買い物や通院の不便さを含む生活環境や家庭でのリスク管理まで考え、患者を支える看護の屋台骨となる。地域との結びつきを実感することは、やりがいや成長につながる。得るものは「届ける側」にも大きい。
同乗の車中、集落などの形容によく使われる「限界」「消滅」という言葉が話題になった。行政用語として使う側の意図があるにしても、あらためて抵抗を覚えた。人の暮らしがここにある。楽しさや喜び、隣近所の助け合いも残る住み慣れた場所で最期まで-。そう願って寄り添う病院の医療や看護の実践は、地域存続の「希望の灯」でもある。(吉)