価格が高騰しているキャベツ=15日、松江市内のスーパー
価格が高騰しているキャベツ=15日、松江市内のスーパー

 きょうは二十四節気の一つの「大寒」。2月2日の節分までは一年で最も寒さが厳しい頃とされる。餌が乏しくなり、生き物たちはエネルギーを使わないように冬ごもりするが、人間もそうせざるを得ないような物価高だ。

 キャベツ1玉が500円を超え、手が伸びないスーパーの野菜売り場。白菜や大根も例年より高値とあり、知り合いからお裾分けしてもらう冬野菜がうれしい。

 昨年の通常国会で、食料危機に備えた「食料供給困難事態対策法」が成立するような現代では、いくらかの田畑を持ち、流通に乗る「商品」ではない「食べ物」を作っている人が強いのだ、と特に思う。頂く野菜は土を感じられて滋味があり、体を作ってくれるのがよく分かる。考えてみれば、一昔前は一般的だった食卓のはずだ。

 作家の向田邦子さん(1929~81年)が、海外から帰宅して最初に作る料理は海苔(のり)弁だったそうだ。かつお節削り器で削ったかつお節を挟んだ、子どもの頃の思い出の味なのだという。晩年のエッセーで「なんでも合成品のまじってしまった昨今では、昔の海苔弁を食べることは二度とできないだろう」と記していた。

 時代が流れ、生命保持に必要な食べ物以外に嗜好(しこう)品もあふれているが、得るものよりも失ったものの方が大きいのではないか。インフルエンザやアレルギーに翻弄(ほんろう)される現代人に、本当の食べ物から離れたツケが見え隠れする。(衣)