松江市の島根県立美術館で作品展が開催中の日本画家・平山郁夫さん(1930~2009年)には、個人的な思い入れがある。
1994年夏、旧県立博物館で開かれたアンコール遺跡救済展「平山郁夫のメッセージ」。当時カンボジアにある世界文化遺産のアンコール遺跡群は、長年の内戦で崩壊の危機にあり、文化財を守ることで平和と人間性を取り戻す「文化財赤十字」を提唱する平山さんが呼びかけ、全国を巡回していた。
いとこに誘われ足を運び、平山さんの作品やアンコールワット寺院の縮尺レプリカに、世界にはこんな神秘的な建造物があるのかと心を奪われた。現地に行くと決め、かなえたのは大学へ進学した2年後。以来、関心が向き東南アジア各地の仏教遺跡を巡った。現地の人との交流で触れた、その国民性や風土も旅の良い思い出だ。
生活に追われ、足が遠のいて約20年。アンコールワット周辺は観光インフラの整備が進み、利便性も安全性も上がったようだ。比例して観光客が激増。乱開発で森林は減り続け、水質の悪化や大気汚染、地域のつながりなど目に見えない破壊も進行しているという。地域経済は潤うが失うものも大きい。
以前、取材した古老が口にした「便利や効率的であることが豊かなのではなく、本当に人間を救うのは非合理さだ」との言葉を思い出す。あらゆることに人は、欲を出し過ぎているのかもしれない。(衣)