粘土型の上に強靭(きょうじん)な石州和紙を柿渋入りの糊(のり)で幾重にも張り合わせ、乾燥したところで粘土を壊して彩色していく。この際の表情作りが最重要。鬼の面なら、いかに恐ろしく見せるか。石見神楽面を手がける職人の腕の見せどころだ。
先日、松江市で開かれた島根県ふるさと伝統工芸品振興委員会。新規の伝統工芸品指定候補として審議された一つが、江津市に工房を構える職人が申請した石見神楽面だった。職人は39歳。中学時代に独学で制作を始め、13年前に脱サラし創業したという。
石見神楽衣装で申請した同市の41歳の職人も高校時代から独学で技術を習得。現在では20代の3人を雇い、後継者の育成にも力を注ぐ。「好きこそものの上手なれ」というが、自らの好きな道を貫く生き方はうらやましい。
ただ、その継続は容易ではない。委員会では販売不振による事業の廃止や縮小を理由に、指定の解除を求める申請もあった。審議委員の一人で石州半紙技術者会の西田誠吉(せいぎ)会長は「職人の収入は決して多くない」と語る。材料費が高騰する一方、物価高が消費を鈍らせる。
日米首脳会談で訪米した石破茂首相がトランプ大統領に手土産として贈ったのが、地元・鳥取市の老舗人形店が受注生産する金色のかぶと飾り。会談後、店には注文が相次いでいるという。地元の工芸品を手土産に海外の要人と会談できる政治家が、島根から出てこないものか。(健)