自動車メーカーのスズキが掲げるものづくりのスローガンに「小少軽短美」がある。コンパクトに(小)、シンプルに(少)、軽く(軽)、スピーディーに(短)開発すると、その調和は必然に美しいもの(美)になる、と。
40年にわたり会社を率い、昨年12月に94歳で亡くなったカリスマ経営者の鈴木修さんが提唱した。得意とする小型で低価格の車造りは、進出したインド市場でも受け入れられ、トップシェアを誇る。現地の産業発展に寄与した功績が評価され、鈴木さんにインド政府から国家勲章が授与されるという。
挑戦した異国の地で偉業を成し遂げたこの人にも通じるものを感じる。バットをコンパクトに振り抜き、理想の打撃をシンプルに追い求め、走攻守全ての動きが軽やかでスピーディー、究めた打席でのフォームは芸術的で美しい-。もうお分かりだろう。米野球殿堂入りを果たした、こちらはイチロー・スズキさんである。
パワーヒッター全盛期のメジャーリーグでスモールベースボールを体現し、本場のファンをうならせた。これぞニッポンの得意技で強みだと胸を張って海の向こうに声援を送った人は多かったろう。
時代は変わり、希代のスーパースターは日本人離れしたパワーで豪快なアーチを量産し、見る者を圧倒する。世界が認めた小さきニッポンの強みなどと言えば、考えが古いともう笑われてしまうのだろうか。見失いたくはない。(史)