「きみはとてもたいせつだよ!」の表紙(スー・ボックス/作、スージー・ポール/イラスト、おのくみこ/訳、ドン・ボスコ社)
「きみはとてもたいせつだよ!」の表紙(スー・ボックス/作、スージー・ポール/イラスト、おのくみこ/訳、ドン・ボスコ社)

 「きみは とても たいせつだよ!」

 こんなふうに言われたことがありますか? 大切な人に言葉にして伝えたことがありますか?

 「このせかいには たくさんの ひとが いるよね。おおきかったり ちいさかったり はだの いろも いろいろ。」

 「ねぇ ゆびさきの しもんを みてごらん。そのしもんは ほかの だれとも おなじじゃないね。 きみだけの しもんだよ。すごいことだと おもわない?」

「きみはとてもたいせつだよ!」の一場面(スー・ボックス/作、スージー・ポール/イラスト、おのくみこ/訳、ドン・ボスコ社)


 「かけまわっているこ おとなしいこ にぎやかなこも いる。きみは どんなこなの?」

 「自分はどんな人?」と問われたら、すぐに答えられるでしょうか。足が速いわけでも、背が高いわけでもなく、人付き合いは特に苦手…。凸凹の”凹”ばかりを挙げてしまいます。

 私が出会った子どもたちにも「いいところなんてない」「どうせぼくはバカだから」と言う子がいます。保護者にわが子の得意なことやすてきなところを尋ねても、「特にない」と言われることがあります。

「きみはとてもたいせつだよ!」の一場面(スー・ボックス/作、スージー・ポール/イラスト、おのくみこ/訳、ドン・ボスコ社)


 しかし、接してみると、魚に詳しい子、折り紙が得意な子と、それぞれすてきな一面が見えてきます。

 私たちはつい自分を卑下しがちです。理想の自己像と、自分が認知している自己像とのズレに苦しむこともあります。しかし、絵本にはこう書かれています。

 「きみが たいせつだってことと いいこだってこととは ちがうんだ。」

 2024年4月、島根県内の発達障害や精神疾患のある思春期・青年期前期の当事者たちが気軽に集える場をつくりました。月1回程度、おしゃべりやカードゲームを楽しみます。先日は出雲大社にお参りしたようです。監修者として、メンバー一人一人を大切にし、自主性を尊重した主体的な運営を重視しています。

 サークル名や活動内容を決める立ち上げ会議の際、メンバーに一つだけ投げかけたことがあります。

 「この会を発信する時、サークル名だけではどんな人の集まりか、分かりづらいかも。皆さんを表す言葉があるといいのでは?」

 話し合いを経て、彼らは「チャレンジドたち」という言葉を選びました。それぞれがどのように自分を理解しているのか、これまでの歩みと、これからの展望が込められていると感じました。温かく見守っていきたいと思います。

 ところで、この絵本は最後にびっくりする仕掛けがあります。ぜひ手に取ってみてくだいね。

 

 みずうち・とよかず  岡山市出身。3児の父。島根県立大人間文化学部臨床発達心理学研究室准教授、公認心理師。発達障害の子どもや家族の相談支援、乳幼児健診の心理相談員、ダウン症、自閉スペクトラム症などの当事者と家族団体の支援などに長く従事する。現在松江市を中心とした障害や病気のある若者当事者グループ「オロチぼたんの会」の活動を監修。著書に「身近なコトから理解する インクルーシブ社会の障害学入門ー出雲神話からSDGsまでー」。