「オチツケオチツケこうたオチツケーこうたはADHD」の表紙(さとうとしなお・作、みやもとただお・絵、岩崎書店)
「オチツケオチツケこうたオチツケーこうたはADHD」の表紙(さとうとしなお・作、みやもとただお・絵、岩崎書店)

 こうたくんは先生の声や運動会の練習の音、友達のくるくる変わる笑顔、給食を作る調理員さんのスリッパの音など、見えるもの、聞こえるものが洪水のように入ってきて処理しきれないようです。そして、はたから見たら勝手な行動をとって家族や先生に叱られます。

 「オチツケ オチツケ こうた オチツケ おとうちゃん おかあちゃんに なんど 言われたろう せんせいに なんど いわれたろう」

 そのたびにこうたくんは自分を責めます。「ボクハ ワルイコナンダ」

 お母さんがこうたくんを病院に連れて行くと、医師はこう言いました。「こうたくんは かしこい子だ おちつかなきゃ いけないって わかってる ともだちに いじわるしちゃ いけないって わかってる」「でも ついつい やっちゃう それはね こうたくんが いま ブレーキのききにくい 車に のっているようなものなんだ」。

 こうたくんは注意や集中、行動の抑制が苦手で、日常生活に困難がある発達障害の一つ、ADHD(注意欠如多動症)なのです。

 それからは両親も先生もこうたくんを励まし、褒めて、ささいなことにも感謝してくれるようになりました。生活環境を調整して、気がそがれないようにしたり、良いところに肯定的な注目をしたりすることで、問題のある行動が減り、自己肯定感は高まりました。怒って泣いてばかりの母親も笑顔が増えたようです。

 「オチツケ オチツケ こうた オチツケ ボク スグ イイコニ ナレナイケド デモ ボクハ ワルイコジャ ナインダ」

 苦戦する子どもたちやその両親の診療、相談援助を続けた、児童精神科医の故佐々木正美先生の解説が巻末にあり、引用します。

 「あいまいで、臨機応変に対応や適応していくことには、とまどいや苦しみを感じている子どもです。そういうことを養育者や教育者は良く理解してあげてほしいと思います。けっして聞き分けの悪い子どもでも、わがままな子どもでもないのですから。この絵本に描かれているような「やさしさ」を、この子どもたちは求めているのです」。まさに至言です。

 皆さんの周りの「こうたくん」は「困った子」ではなく「困っている子」。「どうしてできないの?」ではなく「どうしたらできるか」を一緒に考えてみてください。「特異」で得意なところを探して伸ばし、褒めてあげてくださいね。

 

 みずうち・とよかず  岡山市出身。3児の父。島根県立大人間文化学部臨床発達心理学研究室准教授、公認心理師。発達障害の子どもや家族の相談支援、乳幼児健診の心理相談員、ダウン症、自閉スペクトラム症などの当事者と家族団体の支援などに長く従事する。現在松江市を中心とした障害や病気のある若者当事者グループ「オロチぼたんの会」の活動を監修。著書に「身近なコトから理解する インクルーシブ社会の障害学入門ー出雲神話からSDGsまでー」。