「すずちゃんは、ねんちょうの ゆりぐみさんになっても、おしゃべりが できません。スプーンも うまく つかえません。 きゅうに ないたり わらったり、かみついたりすることも あります。」
すずちゃんは、3歳で自閉スペクトラム症と診断され、5歳で重度の知的障害があると判断されました。地域の保育園に通い、園児たちから「ねえ、すずちゃんママ。すずちゃんはどうしてゆりぐみさん(年長)なのに、くつを自分ではけないの? どうしてしゃべれないの?」と、絵本の作者のすずちゃんママには素直で素朴な疑問がたくさん寄せられたそうです。
「てを ひらひらさせたり、へんなかおをしたり、くるくる まわったり。なんだか うごきも へんてこりんです。 どうしてかな? それはね、うまれたときから「のうみそ」が、ちょっとだけ みんなと ちがうからなんだって。おいしゃさんが いっていたよ。」
幼くても正しい認識ができるように、自閉スペクトラム症の特徴やすずちゃんの気持ちを分かりやすく、丁寧に伝えます。
すずちゃんママは娘の卒園を前に、仲良く過ごした保育園の子どもたちに「すずちゃんのなぞ(障害)」についてきちんとお話をしたいと思い、紙芝居にして朗読。それが絵本になりました。付録はすずちゃんを例にした自閉スペクトラム症の特徴の解説で、正しい理解につながる資料です。
「みんなが さんりんしゃを こいでくれたこと、うまくできないことがあって もたもたしていても まっていてくれたこと、ひっかいちゃっても がまんして なかよくしてくれたこと。 わすれないよ。ごめんね。そして、ありがとう。」
日本自閉症協会は2004年、市民を対象に、自閉スペクトラム症者に対する意識調査を実施しました。その中で、約20%の人が自閉スペクトラム症の原因を「心の病」と誤って回答。子どもが幼稚園などで自閉スペクトラム症児と一緒に過ごすことについては20%程度が「不安である」と答えていました。
調査から20年以上、絵本を出版しても10年近く経ちますが、障害のある人への社会の認識は変わったといえるでしょうか?
読後、「ごめんね」ということばが、どうしても心に引っかかります。障害のある人と家族にそう言わせてしまう社会。それは対等ではなく、まだまだ未成熟だと言わざるを得ません。
すずちゃんのような子どもは、多様な生き方の価値を教えてくれます。障害がある人もない人も、互いを理解し支え合うことで、共に生きる社会は豊かになります。誤解や偏見をなくすためには、正しい知識と、一人一人の個性や思いに目を向けることが大切です。作品から、自閉スペクトラム症の特性や行動の背景、家族の心情を知っていただけたらと思います。