「うさこちゃんとたれみみくん」の表紙(ディック・ブルーナ文/絵、まつおかきょうこ訳、福音館書店)
「うさこちゃんとたれみみくん」の表紙(ディック・ブルーナ文/絵、まつおかきょうこ訳、福音館書店)

 うさこちゃんのクラスに新しい友だちが転校してきました。その子は他の子と見た目がちょっと違い、右耳が垂れてます。

 「くらすの みんなは そのこの ことを たれみみくんと よびました。もちろん それは ほんとうの なまえでは ありません。ほんとうの なまえは だーんです。」

「うさこちゃんとたれみみくん」の一場面(ディック・ブルーナ文/絵、まつおかきょうこ訳、福音館書店)

 生まれつき、あるいは事故や病気などで外見に特徴のある人が、その見た目ゆえに周囲から理解されず、偏見や誤解、差別、いじめなどに直面することを「見た目問題」といいます。

 体の部位の欠損、あざ、傷痕、脱毛症、口唇裂・口蓋(こうがい)裂、アルビノ、アトピー肌などの特徴がある人が、「見た目問題」の当事者となっています。

 こうした特徴は本来、他者との関係性で問題となるものではないはずですが、人と違う外見を持つ人たちが学校生活や就職、恋愛などで苦労しています。

 メディアによる画一的ともいうべき「美しい」「格好(かっこ)いい」「かわいい」などの基準によって苦しんでいる人も少なくありません。

 うさこちゃんの隣の席になっただーんは、面白いことをたくさんお話しする楽しい子でした。仲良くなったうさ子ちゃんはある日、だーんに尋ねます。

 「みんなが あなたのこと たれみみくんって いうの いやじゃない?」

 「うん、いやだよ」「でも、ぼく もう なれてるから。それに みんなが ぼくのことを もっと よく しったら かわるんじゃないかな。」

「うさこちゃんとたれみみくん」の一場面(ディック・ブルーナ文/絵、まつおかきょうこ訳、福音館書店)


 交流サイト(SNS)の普及で、障害や見た目に特徴のある人が、自分について発信することが増えてきました。多くのフォロワーがいる人もいます。

 私は研究で米国に行くたびに必ずおもちゃ屋さんに寄ります。そこには、有名な女の子の人形シリーズに髪の毛や目、肌の色にさまざまな種類があるだけでなく、車いすユーザーやダウン症、そしてLGBTQ(性的少数者)の人形もあります。日本では、このような多様性を表現したおもちゃは見かけません。

 「見た目問題」は、見る側にこそ問題があるといえるのではないでしょうか。

 うさこちゃんはみんなに「たれみみって よぶのは よくない」と呼びかけます。うさこちゃんのように、何かが間違っていると認識し、発言したり行動したりする人を「アップスタンダー」といいます。誰もがこうした問題に対してアップスタンダーになり、多様性を受け入れ、違いに寛容な社会を築くことは大切です。

 子どもだけでなく大人にも大人気のうさこちゃん。数あるグッズには、だーんをモチーフにしたものもあるのですよ。ぜひ調べてみてくださいね。

 

 みずうち・とよかず  岡山市出身。3児の父。島根県立大人間文化学部臨床発達心理学研究室准教授、公認心理師。発達障害の子どもや家族の相談支援、乳幼児健診の心理相談員、ダウン症、自閉スペクトラム症などの当事者と家族団体の支援などに長く従事する。現在松江市を中心とした障害や病気のある若者当事者グループ「オロチぼたんの会」の活動を監修。著書に「身近なコトから理解する インクルーシブ社会の障害学入門ー出雲神話からSDGsまでー」。