さきちゃんのお母さんはタクシー運転手として、朝早くから夜遅くまで忙しく働いています。今日は、さきちゃんが待ちに待った6歳の誕生日。お母さんは会社に頼み込んで、この日の夜は特別に勤務を外してもらいました。ところが、遠くの街にお客さまを送った帰り道、道端で倒れている人を見つけ、その人のために病院を探すことに…。
そんな事情を知らないさきちゃんは、自宅でおばあちゃんと一緒にお母さんの帰りを待っています。テーブルにはすでにおばあちゃんが作ったごちそうが並んでいます。さきちゃんはぽつりとつぶやきます。「やくそくしたのに……」。果たして、お母さんは誕生会に間に合うのでしょうか。
さきちゃんの家族は、おばあちゃんとお母さん、さきちゃんの3人暮らし。お父さんは、さきちゃんが小さな頃に病気で亡くなりました。
現代では、家庭の形はさまざまです。離婚や死別、未婚といった事情で両親がそろわない家庭もあれば、ステップファミリーや、多様な性のあり方に基づく家族も増えてきました。
「でも さみしいと おもったことは ありません。おばあちゃんも おかあさんも さきちゃんを かわいがってくれるからです」とあるように、この物語からは、思いやりに満ちた家族の絆を想像させてくれます。
さきちゃんのような定型発達の子どもであれば、幼児期後半にもなると、他者の立場や感情を理解するようになります。しかし、自閉スペクトラム症のある子どもは、そうしたことの発達が遅れたり偏ったりすることがあります。
私が関わる自閉スペクトラム症のお子さんの中に、家族や友人の誕生日を全て暗記して、必ず心のこもったメッセージカードを贈る子がいます。いろいろなエピソードをうかがうに、その子の家庭は家族全員が互いを深く思いやる温かい家庭。だからこそ、その子も「自分が誰かに思われるとうれしい。その分、自分も誰かを思いやりたい」という気持ちを身につけているのでしょう。誕生日は、そんな日々の思いを形にして祝う、特別な日です。
冬は寒さと相まって、家族や恋人など大切な人と過ごす時間が増える季節。この絵本は「大切な人と一緒に生きている」という、当たり前だけれどとても大切なことに改めて気づく、きっかけをくれる一冊です。