「はなちゃんとチクリとびょうきのおはなし」の表紙(しみずふうがい&日本IDDMネットワーク、自費出版)
「はなちゃんとチクリとびょうきのおはなし」の表紙(しみずふうがい&日本IDDMネットワーク、自費出版)

 「はなちゃんは4さい。ぬいぐるみのチクリといつもいっしょです。」

 「ふだんはふつうのおんなのこと なにもかわらない はなちゃんなのに いちにちなんかいも ちゅうしゃを うたなければいけません。」

 朝起きた時も夜寝る前にも、はなちゃんはママに注射をしてもらいます。そして、はなちゃんもおもちゃの注射をチクリにちくり!

 はなちゃんは健康に生まれ、どこにでもいそうな元気いっぱいの女の子でしたが、3歳の頃、急に体調を崩しました。すぐに疲れて動けなくなるのです。病院の先生は言いました。「1型の糖尿病です」。ある日突然発症し、一生治らない病気です。注射器やポンプを使い、1日に何度もインスリンを補充しなければなりません。

 ママは初めてはなちゃんのおなかにインスリン注射をした時、とてもつらくて、涙をポロポロこぼしました。毎日何回も注射するので、おなかがカチカチになりました。パパはそれを見るのがつらくて、朝早く仕事に行くようになり、毎晩、遅くまで帰ってこなくなりました。

 はなちゃんは注射より嫌なことがありました。パパとママがけんかばかりするのです。家族で公園に行くはずだったある日曜日も。

 「わたしのことで けんかしているの?」「やっぱり わたしが びょうき だからかな パパもママも びょうきの わたしが きらいなのかな」「ちゅうしゃだって がまんしてるし わがままも いわないようにしてるよ。でも、わたしなんか いないほうが いいのかな。」

 チクリと家を出たはなちゃんは雨の中迷子になり、低血糖で動けなくなってしまいます。はなちゃんがいないと気づいたパパとママは、必死に探し回ります。無事に両親の元に戻ることができるでしょうか。

 糖尿病には、はなちゃんのような自己免疫疾患などが原因とされる1型糖尿病と、遺伝的要因や生活習慣が原因の2型糖尿病があります。それを知らない人から「だらしない生活習慣や子育てのせいだ」と、患者と家族は心ない言葉で傷つけられることもあります。

 別冊「パパとママとはなちゃんのおはなし」は、両親の目線で同じ出来事を描いています。はなちゃんと家族の物語は、1型糖尿病の正しい理解だけでなく、この病気とともに生きることの現実、家族の不安や孤独、葛藤、そして愛情が丁寧に描かれ、読者に共感と理解を促します。この絵本が病気を知るきっかけとなり、誰もが温かいまなざしで支え合える社会につながることを願います。

 

 みずうち・とよかず  岡山市出身。3児の父。島根県立大人間文化学部臨床発達心理学研究室准教授、公認心理師。発達障害の子どもや家族の相談支援、乳幼児健診の心理相談員、ダウン症、自閉スペクトラム症などの当事者と家族団体の支援などに長く従事する。現在松江市を中心とした障害や病気のある若者当事者グループ「オロチぼたんの会」の活動を監修。著書に「身近なコトから理解する インクルーシブ社会の障害学入門ー出雲神話からSDGsまでー」。