東京マラソンでゴール後、新型コロナ感染症対策で手洗いをするランナーら=2022年3月、東京都千代田区(代表撮影)
東京マラソンでゴール後、新型コロナ感染症対策で手洗いをするランナーら=2022年3月、東京都千代田区(代表撮影)

 日本語で「遅い」を意味する「のろい」という言葉は延慶(えんぎょう)本『平家物語』に出てくる。写本の成立は鎌倉時代とされ、古くから存在する形容詞の一つだ。ところが「のろ」を片仮名にすると途端に時代が新しくなる。

 米オハイオ州ノーウオークの小学校で集団発生した急性胃腸炎の患者からウイルスが検出され、2002年の学会で地名をもとに「ノロウイルス」と命名された。誰もが知るウイルスの浸透は実はつい最近である。

 全国でノロウイルスが猛威を振るっている。感染性胃腸炎の患者はこの時期では過去10年で最多となった。鳥取でも集団食中毒が相次ぎ、有症者は200人に上る。寒暖差が大きい日が続き、免疫機能が下がり体調を崩しやすくなったのが要因の一つとされる。

 特にトイレでのスマホ利用に気を付けたい。スマホ本体を消毒する人はまずいないため、食事中の利用で感染リスクが高まる。高い感染力に加え、ワクチンも実用化されていないとあれば、とどのつまり手洗いを励行するしかない。

 そういえば、コロナ禍で推奨された20秒以上の手洗いは、平家物語の冒頭をゆっくりそらんじるとちょうどいい秒数になると聞いた。<祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり…>。指先や親指の付け根、手首は汚れていないか。人生で最も手を洗った当時を思い出し、20秒とは言わず、もっとノロノロと蛇口に手を差し出す余裕がほしい。(玉)