腰が引けているのではないか―。出雲市斐川町にある旧海軍大社基地跡の保存に向け、島根県に史跡指定を要望している島根考古学会の松本岩雄会長(69)は県教育委員会の姿勢をこう批判する。「できない理由だけを並べて、文化財として保存しようとする姿勢がうかがわれない」と手厳しい▼県職員OBでもある松本会長は現役時代、県教委文化財課長を務めるなど長年文化財保護行政に携わってきた。その立場からも古巣の姿勢は、後ろ向きに映る▼航空基地として建設された大社基地跡のような戦争遺跡について文化財の価値判断基準が定まっておらず、都道府県では第2次大戦の史跡指定の例がない。そんな「前人未到の領域」で学術調査などに多額の公費を使うことはできない、というのが県教委の考えだ▼戦争遺跡に関する国の立場は微妙。航空基地跡など「攻撃型」施設を国史跡として積極的に指定すれば、戦争史観などに累が及び外交上ややこしくなることも。国としては前面に出にくいが、地方から声が上がってくれば前向きに評価するという。前例踏襲に縛られず、戦争遺跡の価値を島根から発信できないか▼同基地跡は既に地元民間企業が所有している。基地跡の一部に土地を持っている出雲市は、所有地を含め平和学習の場として活用する方法を企業と協議している。モノとして戦争体験を語り継ぐ平和基地としての価値が重い。(前)