第2次大戦下に英国首相を務めたチャーチルは、逆境にこそ成長の場があると説いた。「凧(たこ)が一番高く上がるのは向かい風のときである。風に流されているときではない」との言葉にはドイツ軍と対峙(たいじ)した政治家としての信条がにじむ。
惜しくも敵地で戦う「向かい風」に勝てなかった。Bリーグ島根スサノオマジックが、年間王者を決めるチャンピオンシップ準々決勝で琉球ゴールデンキングスに連敗し、今季を終えた。
舞台はリーグ随一の熱狂度を誇る沖縄。過去最多の8700人超の観客がアリーナを埋める完全アウェーにもかかわらず、島根の選手はたくましかった。エースの安藤誓哉主将は激しいマークに遭いながらも代名詞である3点シュートを放ち続け、津山尚大選手は攻守で存在感を示した。
2試合とも島根は相手を崩して攻撃の形をつくったが、リングに嫌われた。これも勝負の綾(あや)だろう。ポール・ヘナレ監督は「クラブとして一つ上のレベルに成長でき、われわれに対する期待値も高まったと感じている」と総括した。ファンの心にこみ上げてくる口惜しさはチームが成熟した証しでもある。
チャーチルは演説や式典の場で勝利のビクトリーを示す「Vサイン」を掲げたことでも知られる。挫折や悔しさを生かすすべはプロ選手ならば誰もが持ち合わせているだろう。経験した向かい風を推進力に変え、Vサインで凱旋(がいせん)する日を待ちたい。(玉)