経験したことのない揺れと巨大津波の襲来から一夜明けた2011年3月12日午前8時。福島県双葉町に防災無線のアナウンスが響き渡った。

 「今、全地域に避難命令が発令されました。各自マイカーで福島方面に避難してください。避難場所は川俣小学校を確保してあります」

 現在は松江市で暮らすNPO職員の桑原達治(57)は当時、町役場近くの自宅で放送を聞き、津波の再来に備えた避難の呼び掛けだと受け止めた。前日に見た沿岸部の光景の衝撃が大きかったためだ。

 半身まひでつえを突いて歩く桑原は、すぐさま父の運転する車に乗り込んで出発した。途中で合流した弟の車に乗り換え、北西に約50キロ離れた川俣町を目指した。

 既に道路はどこも大...