東京都内で自宅療養中の患者を診察する英裕雄医師=8月(本人提供)
東京都内で自宅療養中の患者を診察する英裕雄医師=8月(本人提供)

 新型コロナウイルス流行「第5波」の急拡大に伴い、首都圏を中心に自宅療養者が急増している。体調が急変した患者が適切な医療を受けられず亡くなる事例も。在宅医療を担う医師らは命を救おうと懸命だが、現場の努力だけでは限界に近い。専門家は「かかりつけ医のいない人も多く、迅速に医師につなぐ仕組みが必要」と強調する。

 「在宅医療は本来軽症者中心だが、症状が重い患者も診なければならない状況になっている」

 危機感をあらわにするのは、新宿ヒロクリニック(東京都新宿区)の英(はなぶさ)裕雄医師(60)。7月後半からコロナ患者の往診が急増し、70人ほどを治療。うち約20人は酸素吸入が必要な状態だった。

 30代の患者は自身で救急車を呼び、入院が必要と判断されたが、受け入れ先がなく入院調整が3時間以上続いた。要請を受けた英医師らが在宅治療を続け、入院できたのは3日後だった。

 都内の自宅療養者は20日時点で2万6297人。療養先が決まらず調整中の1万2488人を合わせると3万8千人を超える。英医師は「在宅では治療環境が整わず、運び入れた酸素吸入や点滴器材で何とか対応している。医療スタッフの疲労が蓄積しており、消耗戦になっている」と嘆いた。

 最悪の事態を迎えた事例も。都内では12日、自宅療養中の夫婦と子どもの家族3人のうち、糖尿病の基礎疾患がある40代の母親が自宅で倒れ死亡。17日には千葉県柏市で自宅療養中の30代妊婦が体調急変で救急車を呼んだが、搬送先が見つからず自宅で早産。赤ちゃんは死亡した。

 都は保健所を経由し、酸素飽和度を測るパルスオキシメーターを自宅療養者に約2万4千台配り、酸素を吸入するための酸素濃縮器500台の確保を打ち出した。だが感染者急増に追いつかず、いずれも不足を指摘する声が上がる。

 入院先が見つからなかったり、症状が悪化したりした患者が酸素吸入を受けられる「酸素ステーション」も設置方針だが、当初用意できるのは240床程度。都は23日までに開設するという。

 国際医療福祉大の和田耕治教授(公衆衛生学)は、酸素ステーションなどの整備は重要だが、あくまでも一時しのぎの措置と強調。30代や40代の患者には、かかりつけ医のいない人も多いとし「オンラインの活用などで相談できる医師を確保する仕組みが必要だ」と指摘した。