リンゴという言葉や文字が相手に伝わるのは頭の中で言葉とイメージが結び付いているからだそうだ。では<きれいな花が咲いた>はどうだろう。きれいさは感じ方で人それぞれ。花にもいろいろ種類がある。すぐには画像が浮かびにくく、しかも人によって思い浮かべる花は違う。一方<真っ赤なバラが咲いた>なら画像がすぐに浮かぶ▼読んで場面が思い浮かぶのが分かりやすい文章だと教わった。具体的に書くのはそのため。ただし、詳し過ぎたり、専門的になったりすると逆効果。例えば「サムライ」という名の真っ赤なバラがあるが、単に<サムライが咲いた>ではバラの品種であることや、花の色を補わないと分かる人は限られる▼菅義偉首相の看板政策、デジタル庁が9月に発足する。行政手続きのオンライン化を進める「司令塔」らしいが、漠然としたイメージしか湧かない。国民にどんなメリットがあるのか、分からない▼何しろ頭にデジタルの文字が付く用語は多い。時計にカメラに放送。通貨や課税の前にも付く。試したことはないが、デジタルパーマもある。最近は、技術や情報によって業務やサービスを改革する「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が幅を利かす▼「バスに乗り遅れるな」という気持ちは分かる。ただデジタル庁が「きれいな花」のままでは選挙用にはなっても、とげがあるかどうかも分からない。(己)