衆院選の顔を選ぶ自民党総裁選を直前に控える中で、3日の菅義偉首相の退陣意向表明は、山陰両県の党関係者に衝撃を与えた。首相交代により新型コロナウイルス対応で生じた逆風をはね返せるのか。世論調査で人気が高い石破茂元幹事長(衆院鳥取1区)の待望論が地元の支持者から上がり、「竹下時代」からの転換期を迎える島根2区の関係者は、動向を固唾(かたず)をのんで見守る。(取材班)
3日午後、鳥取市内の石破氏の事務所では「今がチャンス」と総裁選出馬を迫る電話が約30件、鳴った。
同じ頃、東京都内の事務所で取材に応じた本人の態度は煮え切らない。「総理が(立候補を)やめるので全く新しい展開だ」と述べたものの「白紙は変わらないが選択肢は狭まった。同志と相談し、しかるべき時に結論を出したい」と明言を避けた。石破派側近の赤沢亮正衆院議員(鳥取2区)は「本人も驚天動地だろう。寄せられるありとあらゆる声を聞き、判断されると思う」と代弁する。
地元の待望論は根強い。
女性後援会・八頭郡さつき会の片山悦子会長(71)は、政治不信を招いている党の体質を変えるため出馬を懇願。「ぐずぐずしないで態度を示してほしい」と訴えた。党鳥取県連の斉木正一幹事長も、派閥が菅首相支持で雪崩を打った前回総裁選と状況が違うとし「候補が乱立しそうで票が割れる。チャンスがある」と色めき立つ。
竹下亘衆院議員が政界から退く島根2区は、兄で元総理の登氏から60年以上続いた一時代が終わり、選挙ごとの風にかかわらず地域で力を持つ「竹下」の看板が掛け代わった。知名度が不足する後継候補は、党勢を気に掛けざるを得ない。
党掛合町支部の影山喜文支部長(71)は「このまま選挙戦に突っ込むと苦しかった」と打ち明ける。総裁選での政策論争に期待し「逆風が少しでも収まってほしい」と願った。
ただ、新たな首相の下で感染収束への打開策が見つかるかは不透明。党島根県連の絲原徳康幹事長は「菅首相は一生懸命やっていたが発信力が課題だった。新首相は国民へ寄り添う姿が必要だ」と指摘する。
島根2区の選対は4、5の両日、選挙区内6地区で地域支部長らを集めて会議を開き、準備を進める。本部長を務める森山健一県議は「コロナ対策の批判はあるが、誰がやっても難しい。顔を変えれば選挙が強くなるわけではない」と自らに言い聞かせた。