10月31日の公開から5週が経った現在も、映画『爆弾』の勢いが止まらない。11月30日までの興行収入は約22億円(21億9312万4240円)、観客動員は154万人を突破した。平日夜の回でも満席になる異例の状況のなか、オリコンニュースでは11月29日、東京・新宿ピカデリーで本作を鑑賞した観客に作品の魅力を聞いた。
【画像】映画『爆弾』そのほかのメイキング写真
この日、同劇場の4回あった上映のうち、午後2時30分の回と午後5時45分の回は満席。午前8時10分、午後8時40分の回もわずかな空席のみと、5週目とは思えない集客ぶりだった。
原作は、呉勝浩氏による同名小説。「このミステリーがすごい! 2023年版」(宝島社)、「ミステリが読みたい! 2023年版」(ハヤカワミステリマガジン)で1位を獲得した話題作。都内で爆弾事件が発生するなか、それを予告する謎の男と、警察との攻防を描く。
酔った勢いで自販機と店員に暴行し、連行された謎の中年男(佐藤二朗)。「スズキタゴサク」と名乗り、名前以外の記憶を失ったと言い張る男は、取り調べ中に「霊感だけは自信がありまして。10時ぴったり、秋葉原で何かあります」と不気味に告げる。戯言だと思った矢先、本当に秋葉原のビルが爆発。呆然とする刑事の前で、スズキは淡々と「ここから3回、次は1時間後です」と告げる。
前代未聞の被疑者の取り調べに乗り出したのは、警視庁捜査一課の類家(山田裕貴)と清宮(渡部篤郎)。一方、沼袋交番勤務の倖田(伊藤沙莉)と矢吹(坂東龍汰)は市内を奔走し爆弾を捜索する。やがてスズキは“爆弾にまつわる謎めいたクイズ”を出し始め、取調室では心理戦・頭脳戦が加速していく。
監督は『キャラクター』『帝一の國』などで知られる永井聡。主演の山田、「スズキタゴサク」を怪演する佐藤をはじめ、伊藤、坂東、渡部、染谷将太、寛一郎といった主役級俳優が集結し、圧巻のケミストリーを見せている。
通常、公開初週が興行のピークで、その後は右肩下がりが一般的。しかし、『爆弾』は3週目・4週目でもほぼ100%の稼働率を維持し、20億円の大台を突破した。ヒットは容易ではない中、なぜこれほど観客をひきつけているのか。
■中学生が語る“爆発の読めなさ”の快感
都内在住の中学生2人組は、勢いよくこう語った。
「私は一度家族と観ていて、今日は“布教”です(笑)」「“すごかったから一緒に行こう”って誘われて来ました」
彼女たちはスズキ役・佐藤二朗の鬼気迫る演技に驚いたという。
「本当に鳥肌立ちました」
さらに、セットや特殊メイクのリアリティにも圧倒された。
「セットが本当に作り込まれていて、特殊メイクもすごくリアル」「“生々しさがすごい”って思いました」
そして、爆発シーンの“読めなさ”に夢中になった。
「一度爆発したと思ったら別の場所でも爆発するんです。“あ、大丈夫か”と思うとまた爆発したり(笑)」「ずっと“次はどこ?”って警戒してました」
■SNS比較論で火が付いた?
20代女性は、口コミで鑑賞を決めた。
「映画館の予告で気になっていたんですが、映画好きの友人が“面白い”と言っていて。SNSでも『国宝』と比較されている投稿をよく見るので、“ここまで話題なら観るべきだ”と思いました」
特に印象に残ったのは、劇中のYouTube動画を見た大学生たちがアカウントを消すシーンだ。
「“他人事じゃないぞ”という感覚が伝わってきて、すごく引き込まれました。社会の中で“守られるべき人”も、視点を変えれば誰かの憎しみや妬みの対象になり得る。自分にも当てはまるかもしれない怖さがありました」
■「2時間超えなのに1秒も飽きない」
20代男性・コンドロイチンさんは、こう話す。
「佐藤二朗さんの演技がすごい。取り調べの緊張感も、爆発シーンの迫力も全部良かったです。特殊メイクや作り込みが細かくて、2時間ちょっとなのにまったく飽きませんでした。俳優陣の充実した演技が、作品の“濃さ”を支えていると思います」
■「画面に吸い込まれた」50代男性の声
50代男性・CARRYさんは、ヤフーレビューをきっかけに夫婦で来場した。
「評価が良かったので気になっていました。妻も“行きたい”と言うので」
若い頃は映画館に通い、パンフレットを1000冊くらいコレクションしていたという。そんなCARRYさんにとって、“久々の没入感”だったという。
「テンポが良くて、先が読めない。137分が一瞬でした。山田裕貴さんと佐藤二朗さんの演技が本当に上手い。久々に“画面にグーッと引き込まれる”映画でした」
■コミック版既読者が語る“得体の知れない怖さ”
原作コミカライズ版を読んでいた男性は、こう表現する。
「ホラーじゃないのに“説明できない怖さ”がある。真実を知りたくなるような得体の知れない恐怖感。俳優陣の怪演もあって、ネタバレなしですすめられる作品です。ソフトが出たら買おうかなと思うくらい、また観たくなりました」
■ 東京が舞台だから余計リアル
映画好きの20代女性2人組は、今回が2回目だった。
「初回は特典ももらいました。東京が舞台だから怖いというより“起こりそう”なリアルさがあって、もう一度観たくなったので。俳優さんの演技力はもちろん、爆発の迫力も印象的です」
■俳優たちの熱演と爆破の二重構造がヒットを加速
本作は、取調室の緊迫感と、東京中で巻き起こる爆破シーンが大きな見どころだ。取調室では、スズキタゴサクに翻ろうされる刑事たちの心理ミステリーとして高い完成度を誇り、佐藤の怪演を筆頭に、渡部、寛一郎、染谷ら俳優陣が緊張感の渦に巻き込まれていく姿が作品に厚みを与える。なにより主演の山田が、類家の鋭い推理力と存在感を見事に体現しているのも大きな魅力だ。
一方、爆破シーンでは専門機関の協力を得て、「この量の爆薬なら車はどの程度吹き飛ぶか」「人体にはどう作用するか」といった検証を重ね、徹底してリアリティを追求。いつどこで爆発が起こるかわからない緊張感と、予測不能なスリルを存分に味わえる映画としての迫力をしっかり担保している。
こうした要素が重なった結果、観客に“ものすごいものを観た”という充実感と、ある種の疲弊感すら与える作品となった。その体験が「とにかく面白かった」という力強い口コミとなって広がり、異例のロングヒットを生み出している。
特筆すべきは、このヒットが奇抜な仕掛けや話題ありきではなく、映画として“当たり前”とされる基盤――俳優の力量、緻密な心理描写、徹底した実証に基づく映像、テンポの強弱――を極限まで高めた結果として成立していることだ。
“特別なこと”よりも、“基本の精度”こそが観客の信頼と熱狂を生んだ。それを証明した作品と言えるだろう。
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