防衛省は2022年度予算の概算要求で、21年度当初予算比2・6%増となる5兆4797億円を計上した。

 概算要求額としてはほぼ前年度並みだが、米軍再編関連経費などは金額を示さない「事項要求」としており、年末の予算編成で減額されたとしても過去最大を更新する見通し。目安とされる国内総生産(GDP)の1%を上回る可能性がある。

 防衛省は、周辺各国が防衛費の大幅な増額など軍事力の強化を図り、「安全保障環境がこれまでにない速度で厳しさを増している」と大幅要求の理由を説明している。

 確かに中国は21年予算案に前年比6・8%増の1兆3553億4300万元(約23兆5千億円)の国防費を計上、沖縄県・尖閣諸島周辺で活動を続け、台湾有事も取り沙汰されている。

 しかし、互いに軍事力を増強していけば、逆に危険性が増す「安全保障のジレンマ」に陥りかねない。対立を深める軍拡競争ではなく、相互の信頼関係を築く対話の道を追求すべきだ。

 概算要求では、中国への対処をにらんで沖縄県・石垣島に地対空・地対艦ミサイル部隊を新設するなど南西諸島の防衛力を強化。人工知能(AI)や無人兵器など戦闘の様相を根本的に変える「ゲームチェンジャー」技術への研究開発費や投資を増やしている。

 懸念するのは「専守防衛」という防衛政策の基本から逸脱しかねない「攻撃力」を持つ方向性が目立つということだ。

 最近の防衛政策は、米中対立の激化、中国による台湾侵攻の可能性を理由に防衛力の増強一辺倒で進んでいる。菅義偉首相は4月のバイデン米大統領との首脳会談で「日本の防衛力強化への決意」を表明した。

 防衛費はGDP比で1%を超えないとする「1%枠」の閣議決定は中曽根内閣時代に撤廃されたが、現在も一つの目安とされ、リーマン・ショックでGDPが落ち込んだ10年度以外は1%以内に抑えられている。

 だが、菅政権は19~23年度の防衛装備の整備目標を定める「中期防衛力整備計画(中期防)」を年内にも前倒しで改定し、防衛費の増額を目指す方針だった。

 21年版の防衛白書は、中国の軍事動向に関して「安全保障上の強い懸念」と強調。台湾情勢が「日本の安全保障や国際社会の安定にとって重要だ」と初めて明記した。

 麻生太郎副総理兼財務相は、中国が侵攻した場合、集団的自衛権の行使を可能とする安全保障関連法の「存立危機事態」として、日米で台湾を防衛すべきだと発言。菅首相も米誌インタビューで台湾有事の際「沖縄の米軍基地を日米同盟で守る」と述べている。

 しかし、菅政権の外交からは、中国との関係をどう構築していくのかは全く見えてこなかった。菅氏の後継を選ぶ自民党総裁選と、その直後の衆院選でも国民に問う重要な争点とすべきだ。抑止力は必要だとしても、安保上の脅威への対処策は軍事力だけではない。地域の平和と安定に向けた総合的な戦略が必要だ。

 22年度の一般会計概算要求総額は111兆円台と、4年連続で過去最大になった。新型コロナウイルス対策費は金額を明示しておらず、さらに膨張の恐れがある。財政健全化のためにも防衛費をはじめ歳出の厳しい見直しを求めたい。