島根県西部を流れる江の川の氾濫から14日で1カ月がたった。被災地ではコメやソバといった農作物の収量や品質低下が顕在化。特にコメは、新型コロナウイルス禍で買い取り価格が大幅に下落した影響も懸念される。水害とコロナのダブルパンチに見舞われた生産者は、早期の治水対策と農家支援の充実を求める。 (福新大雄、佐伯学)
JAしまねによると、流域3市町(江津市と川本、美郷両町)の農地計約80ヘクタールが冠水し、水稲を中心に被害が出た。
「収穫量が減るのは避けられない」。高齢者や、後継者がいない農家の遊休農地23ヘクタールを預かり、コメをつくる農事組合法人・川平みどり(江津市川平町)の天野明組合長(74)が倒伏した稲を見やった。
8月14~15日の氾濫により、粒内部に亀裂ができる「胴割れ」や、芽が出て出荷できない「くず米」が増加。泥が付いて交配できず実がならないものもある。刈り取り作業中だが、約100トンの生産計画に対し、2割減を予想する。
川本町川本の谷地区の50アールでコメをつくる兎谷春男さん(72)も、8月9日の台風9号で稲が倒れたところに14日の氾濫で水没。「例年の半量を収穫できるかどうかわからない」と肩を落とした。
多くの農家がコメを出荷するJAしまねは、コロナによる需要減で在庫が増えたため、2021年産米の買い取り価格を減額。コシヒカリ(1等米、60キロ)の場合、前年産より15・9%減の1万600円で、生産者の収入ダウンは避けられそうにない。
天野組合長は「中山間地域の農業を守るためにやってきたが、このままでは持続できない。治水対策を急ぎ、被災農家の補償も充実してほしい」と要望した。
美郷町では、特産化に乗りだしたばかりのソバが長雨の影響を受ける。
地元農家と町、JAがつくった一般社団法人・ファームサポート美郷(美郷町久保)は、水に漬かった種は発芽しにくいことや、8月中旬に予定した種まきが雨で約半月遅れ、交配を媒介する虫が少なくなったことを踏まえ、計画した8・2ヘクタールの作付けを7ヘクタールに縮小した。十割そばのブランド化を目指すだけに、烏田正輝理事は「成長が遅れ、収量が落ちる恐れがある」と不安視した。
水害が頻発化したため、JAなどは出水期前に収穫できるタマネギやレタスの栽培を奨励するなど、作物転換も進めてリスクに備える構えだ。