所得総額と所得税負担率
所得総額と所得税負担率

 金融所得税制に注目が集まるのは、富裕層ほど給料など他の収入を含めた所得総額に占める金融所得の割合が高く、しかも所得総額が1億円を超えると所得税の負担率が下がっていくためだ。中間層の拡大に向けた「令和版所得倍増計画」を経済政策の柱に掲げた岸田氏は、これを「1億円の壁」と表現し「壁を打破する」と宣言した。

 所得税は、収入から必要経費を控除した後に残る課税所得が多いほど税率が高くなる「累進課税」で、自治体に納める個人住民税を含めた最高税率は4千万円超の部分に適用される55%。しかし、こうした所得税の税率は金融所得に適用されず、所得税と住民税を合わせて一律20%となっているため、「1億円の壁」が生じてしまう。

 高市氏は月刊誌「Hanada」10月号とインターネット版のインタビューで「金融所得は増税させていただきたい」と表明した。「50万円以上の金融所得の税率を現状の20%から30%に引き上げると、おおむね3千億円の税収増になる」との独自の試算も示した。

 河野氏も近著「日本を前に進める」で金融所得の税率を「一定程度引き上げるといった対応を検討すべき」と記した。

 3氏に共通するのは、新型コロナウイルス禍で一段と広がった所得格差の是正だ。富裕層から多くの税金を徴収して、それを低所得層に分配することで不公平感の少ない社会を目指している。

 立憲民主、共産、社民、れいわ新選組の4野党も「共通政策」に、消費税減税と並んで「富裕層の負担強化」や「公平な税制の実現」を列記した。金融所得税制の見直しを念頭に置いている。

 日銀による大規模な金融緩和、財政出動、成長戦略を柱とする安倍晋三前首相の経済政策は株価上昇をもたらしたが、所得格差は広がった。「アベノミクス」の影の部分がクローズアップされるようになったことも、富裕層への課税強化を実施しやすくしている。 「金持ち優遇」と批判されることが多い金融所得税制の見直し機運が高まってきた。自民党総裁選に名乗りを上げた岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、河野太郎行政改革担当相の3氏が、株式の売却益や配当金に代表される金融所得への課税強化を訴え、野党も意欲を見せているためだ。11月と見込まれる衆院選で与野党のどちらが勝っても、年末恒例の税制改正議論で主要テーマになりそうだ。16日に立候補を表明した野田聖子幹事長代行の経済政策にも注目が集まる。