ちょうど1カ月前、東京五輪の陸上競技でスターターを務めた熊本の中学教諭がテレビ番組で紹介されていた。自らの希望がかなったものの、大会前の取材に「選手が人生を懸けてくるので緊張する」。想像するだけで身震いするような緊迫感が伝わってきた▼同じ号砲でも、こちらは差し迫った感じがしない。きょう告示される自民党総裁選。事実上の次期首相を決める選挙ながら、コロナ禍という異常時での「内輪の争い」に冷めた目が多いせいか▼総裁選にもさまざまな展開がある。安倍晋三首相の突然の辞任表明で行われた1年前は、主要5派閥が早々に菅義偉氏の支持を打ち出し、号砲を前に勝負が決まってしまった▼対照的だったのが20年前。所属派閥を離脱して出馬した小泉純一郎氏が「自民党をぶっ壊す」と繰り返し、古い自民党の打破を主張。地方組織が実施した予備選での地滑り的勝利を背景に、圧倒的に有利とみられた最大派閥・橋本派の橋本龍太郎氏を破ってみせた▼もっとも二つの選挙の根っこは同じに映る。派閥単位で勝ち馬に乗ったのが1年前なら、予備選を受けて優位な候補者に一気になびいたのが20年前。当選3回以下の若手議員が多い今回は後者に近そうだ。政治家として「人生を懸けてくる」のは分かるが、「国民のため」より私欲が透けて見えては、五輪選手に対してのように純粋に応援できないのも仕方ない。(健)