1ドル=360円と聞いてぴんとくるのは、60歳以上の世代だろう。終戦間もない1949年から4半世紀続いた固定為替相場時代に物心ついた人たちは、記憶の片隅にこの数字が刻み込まれているのではないか。その後、変動相場制になり、円高のたびに輸出関連企業は試練を受けた。「360円時代なら、こんな苦労をしなくても」と経営者らから恨み節も漏れる▼今年は、71年のニクソン・ショックをきっかけに「360円時代」が終わって50年を迎える。輸出が壊滅的な打撃を受け、日本経済全体が沈むと当時は悲観論が広がったが、実際には為替変動によって日本経済は鍛えられ、打たれ強くなった▼日々変化する円相場を通じ、円高は輸出を不利にして景気を冷やすため「悪玉」、円安は輸出をしやすくする「善玉」と受け止められがち。時々の政権にとっても円安は手柄となり、円高は失点にされやすい▼安倍晋三前首相は「悪夢の民主党政権時代の円高を是正し、景気回復に道筋をつけた」とアベノミクスの円安効果を強調。実際に民主党政権時代の2011年10月に1ドル=75円台の史上最高値を付けた▼しかし、一概に円高を悪者扱いするのは、天に唾するようなところがある。円高になれば、海外から安くモノが買えるなど通貨としての値打ちを高め、国力を裏付ける。「360円時代」卒業半世紀にわが懐の購買力を値踏みしてみる。(前)