芥川龍之介が紀行文『松江印象記』で称賛した水都松江に長年住んでいると、水のありがたみに鈍感になる。山陰の主要都市では唯一、目の前の1級河川から飲み水が取れないにもかかわらずだ▼注目度が高まるSDGs(持続可能な開発目標)では、水は大切なキーワード。衛生的な水がなく、干ばつで農作物が取れず、飢餓と貧困の連鎖が続く地域を取り残さないため水の確保をゴールに据える▼アジアで最も水に苦しむ国の一つがアフガニスタンだろう。戦乱続きだが、実は20年ほど前まで食糧自給率100%の農業国だった。しかし気候変動が山の万年雪の解けだすリズムを狂わせた。洪水が用水路を破壊し、干ばつが農地を崩壊させた。農民は土地を放棄し都市へ流出するか、難民となった。かくして自給率は50%に急落。外国からの巨額の援助は末端まで行き渡らない▼この悪循環に早くから気付いたのが、医師の故中村哲さんだった。井戸掘りや用水路建設を現地の人とともに進め、65万人が食える農地を現出させた。その信念は凶弾に倒れる直前の原稿を含めたベストセラー『希望の一滴』(西日本新聞社刊)に詳しい▼行政機関が機能しない地縁・血縁社会を理解し、中村さんは誰とでも胸襟を開いた。価値観を押し付けず、相手をおもんぱかり、和解の糸口を探す。大変だが、最悪のアフガン情勢がより良くなるには中村流しかない。(示)