松本京子さんの写真を眺める孟さん=米子市内和田町
松本京子さんの写真を眺める孟さん=米子市内和田町

 北朝鮮による拉致問題は2002年の日朝首脳会談で北朝鮮が拉致を認め、被害者5人が帰国して以来、目立った進展はない。

 米子市出身の政府認定拉致被害者・松本京子さん=1977年失踪当時(29)=の兄・孟(はじめ)さん(74)は「家族としては何人が生存しているか、安否を確かめてもらうだけでも安心できる」と切実に訴える。

 自宅居間の棚にある写真に京子さんと写る母の三江さんは、再会を果たせないまま2012年に89歳で亡くなった。孟さんも年を重ね、家族会メンバーと会うと「どれだけ薬を飲んでいるか」と互いの健康が話題になる。

▽薄まる関心

 進展がないのはなぜか。

 北朝鮮をめぐる政治外交に詳しい聖学院大の宮本悟教授は02年の被害者帰国について「当時、北朝鮮が各国への融和路線にかじを切っていたことが大きい」と説く。北朝鮮にとって脅威である米国と近い日本との交渉は重要だったという。

 しかし今や米朝関係は冷え切り、北朝鮮は日本との交渉にメリットを見いだしていない。日本がメリットを示すしかないが「融和路線は世論の反発を招く可能性が高く、政治家にとって思い切りにくい」とみる。

 世論も当時ほどの高まりはない。特定失踪者問題調査会(東京都)の荒木和博代表は「事態が動かない中で拉致への世間の関心が薄れている」と嘆く。自ら動くしかないと9月末に就任した岸田文雄自民党総裁宛てに特定失踪者家族との面会を求める文書を送った。

▽国家の威信

 政府認定の拉致被害者17人のほか、拉致の可能性を排除できない特定失踪者が全国に約900人いる。島根では10人、鳥取は7人が該当する。

 江津市出身の特定失踪者・和田佑介さん=02年失踪当時(25)=の母執子さんも19年、76歳で世を去った。一緒に街頭演説や署名運動に取り組んだ叔父の林健さん(76)=江津市都野津町=は「拉致問題は日がたつほどに悪化する」と焦る。歴代の担当相が兼任ばかりなのも気がかりで「拉致は本気で取り掛からないと解決しない」と訴える。

 拉致問題は被害者や家族が健在なうちに解決しなければ意味がない。世間の関心が薄れ、家族らの声が細るに任せて交渉を先送りするようでは、国民の命と安全を守るべき国家の威信が揺らぐ。ひいては、韓国が実力支配する竹島(島根県隠岐の島町)や中国による一方的な資源開発が進む東シナ海の問題など、東アジア外交で後手に回ることになる。 (報道部・佐貫公哉)

  =おわり=