引退会見で家族から花束を受け取り握手する姿を見て、あの時の大きな手を思い出した。大相撲史上最多45度の優勝を飾った白鵬が引退を表明した。22歳だった2007年夏場所後に横綱昇進。以降84場所も綱を張り続けた▼08年初場所千秋楽、優勝を懸けた横綱朝青龍との大一番が脳裏に焼き付いている。仕切りで長時間にらみ合い、力と力がぶつかり合う名勝負は、白鵬の上手投げで勝負がついた▼朝青龍の度重なる不祥事、野球賭博の発覚、新型コロナ禍による無観客での興行。順風満帆とはいえない角界を支えた。ただ最近では、立ち合いでの肘打ち、大振りの張り手にガッツポーズと、自身の立ち居振る舞いに苦言を呈されるようになる。白鵬に魅了されたファンとして残念に思っていた▼10年ほど前、祖母と出雲市であった巡業に出掛けた。白鵬が東の花道に姿を現すと大歓声が上がった。ところが祖母は認知症が進んでいたためか、拍手をすることもなく土俵をじっと見つめたまま。すると大きな手が祖母の目の前に現れ、手を取り握手してくれた。白鵬だった▼帰宅後「はっぽうさん」と喜んだ祖母は、翌日にはすっかり握手のことを忘れていた。それでも白鵬の心遣いを家族は忘れることはない。早速、間垣親方として後進育成をスタートさせた。あの時そっと差し出された大きな手は、次世代の横綱を育てる支えとなると信じている。(目)