4年ぶりとなった衆院選が終わった。野党側の候補者一本化が進み、「政権選択選挙」の色合いが久々に強まったものの、島根、鳥取4小選挙区は自民党候補が議席を独占。勢力図が塗り替えられることはなかった。

 今回の衆院選に当たって、国会議員の理想像について考えてみた。国とのパイプ役、地元への利益誘導…。有権者が求める役割はさまざまながら、欠かせないのは清廉潔白さであり、主権者たる国民と真正面から向き合う真摯(しんし)な姿勢ではないか。

 そのことは130年も前から唱えられていた。明治時代の政治評論家、大野清太郎が書いた『国会議員撰定(せんてい)鏡』(1890年)には議員に必要な資質として「政治経済の学問を修め、その知識に富んだもの」「内外の事情を知得したるもの」など、現代にも通じる八つの要素が挙げられている。

 その中の一つ「廉潔心あり金銭に惑わざるもの」は、現代の政治家に欠けている要素として当てはまる。加計、森友両学園や桜を見る会問題、日本学術会議の会員任命拒否などに正面から向き合おうとせず、不誠実だった安倍、菅両政権の政治姿勢は、清廉潔白を示す「廉潔心」とは程遠かった。

 河井克行元法相と案里夫妻の買収事件、甘利明自民党幹事長の建設会社からの金銭授受疑惑といった「政治とカネ」の問題も、今回の衆院選の争点になった。こうした状況が改善されなければ、政治への失望感はさらに広がってしまうだろう。

 もうひとつ注目したい要素が「地方の実況を詳(つまび)らかにし、常に公共の事業に尽力するもの」である。国会議員は選挙区の代表者である傍ら、その地方だけではなく、国家全体の利害を考える必要があるとの指摘だ。同時に、他の議員の議案に対しては自らの選挙区の利害を照合した判断が求められるため、地元の事情を詳しく理解しておかなければならないことになる。

 そうでなければ反発を招くという象徴的な出来事があった。今年2月、国や東京都の新型コロナウイルス対策を不十分とする丸山達也島根県知事が、東京五輪聖火リレーの県内中止を検討しているという報道を受け、島根2区選出の竹下亘衆院議員(当時)が「(知事に)注意しようと思う」と発言。県内の有権者からも「上から目線だ」「地域の実情を理解していない」などと批判が高まった。

 竹下氏は後日、丸山知事に対し「オリンピック(を持ち出すこと)は筋が違う」というのが真意だったと説明。同様に国からの経済支援が少ない複数の県で連帯して声を上げるようにアドバイスしたものの、後味の悪さが残った。

 コロナ禍で存在感をアピールしているのは、国会議員ではなく首長だろう。丸山知事の問題提起が発端となり、34道県知事が感染拡大地域との経済支援格差の是正を求め、政府に緊急提言を実施。全国知事会の新型コロナウイルス対策本部の本部長代行を務めるなど、感染対策の中枢を担ってきた平井伸治鳥取県知事は知事会長に就いた。

 コロナ禍を機に、東京一極集中への危機感がクローズアップされる中、首長を中心にして、地方から国を動かそうという波が大きくなっている。

 地元選出国会議員も負けていられないはずだ。地域の声を受け止め、実情をくまなく理解した上で、東京一極集中の変革へ向けて力を尽くしてほしい。