動画投稿サイトのユーチューブに公開された一つの映像が反響を呼んだ。「やっぱ自分の未来の事にもかかわってくるから」「社会の中で、自分がいるっていうことを確認できる気がする」…。俳優の小栗旬さんや二階堂ふみさん、渡辺謙さんらが、衆院選で若者に投票を呼び掛ける「VOICE PROJECT 投票はあなたの声」だ。
行政の啓発活動でも、特定政党の支援でも、広告でもない。若い世代の投票率が低いことに危機感を抱く芸能人14人が立ち上がった。
政権選択の第49回衆院選は、きょう投票日を迎えた。この4年間の自民、公明両党による連立政権の実績、そして各政党が公約として示した政策やそれぞれの党首、候補者が訴えた今後の国家・社会像という二つの物差しで判断する機会だ。
新型コロナウイルスの猛威は、政治は自分たちとは縁遠い世界と考えていた人たちも、命と暮らしを守るために実は身近なものであると実感しただろう。感染症のまん延という危機に直面し、PCR検査の拡大や感染者の急増で崩壊に陥った病床提供、ワクチン接種の促進など医療体制の整備に対し、政治は十分機能を果たしたのか。
自粛生活を強いられ、経済活動は停滞し、苦境に立たされた事業者は少なくない。そこに政治は温かい手を迅速に差し伸べたのか。一人一人が振り返る必要がある。
国政選挙、地方選挙を問わず、投票率の低下が指摘されて久しい。衆院選は2014年が52%、17年は53%。19年参院選ではついに50%を割り込む。民主主義の土俵づくりである選挙で、半数しか権利を行使しないのであれば、「2分の1民主主義」と言われても仕方ないだろう。
とりわけ深刻なのは、若い世代の行動だ。16年から選挙権が18歳以上に拡大されたが、4年前の衆院選の10代の投票率は40%、20代33%、30代44%。2年前の参院選でも10代32%、20代30%、30代38%と他の世代に比べて圧倒的に低い。
ただでさえ、この国の人口構成で占める比率が小さいというハンディを背負った若者たちが、投票所に足を運ばなければ、ますます政治の場に声が届かなくなり、年齢の高い人たちばかりを意識した政治が行われかねない。「シルバーデモクラシー」と呼ばれるゆえんだ。
安倍、菅両政権の時代に進行した格差の拡大や分断を修復したい。人口減少と少子高齢化という「縮む社会」に生きていくことが余儀なくされる中で、これから主役になる世代にとって、持続可能な社会保障制度の構築や地球温暖化問題への対応は、自分たちの未来を左右する。そのかじ取りを、どの政党に、誰に委ねるのか、投票という行為で意思表示してほしい。
終戦間もない頃、中学、高校で使用された教科書「民主主義」には、こんな記述があった。「多数の有権者が自分たちの権利の上に眠るということは、単に民主政治を弱めるだけでなく、実にその生命をおびやかすのである」。民主主義を根付かせようという熱い思いが伝わってくる。
「僕らのできる第一歩みたいなものが投票だよなと思っている」と小栗さんは映像の中で語る。私たちの行動が積み上がることで、間違いなく政治は動く。1票は無力ではない。