2001年の本紙に掲載した「寝仏山」の写真
2001年の本紙に掲載した「寝仏山」の写真

 松江市東部に連なる嵩山(標高331メートル)と和久羅山(標高261.8メートル)は、山の輪郭が仰向けになった大仏のように見えることから「寝仏山」と呼ばれ市民に親しまれている。最近、松江市街から見て南側、大仏の額にあたる部分が低くなり、へこんだように見える。へこんでいるのは和久羅山の山頂付近。いったい何があったのか。確かめてみようと、山頂を目指した。(Sデジ編集部・宍道香穂)

現在の寝仏山。写真右側、寝仏の額にあたる部分が少し低くなっている。
低くなった部分

 和久羅山の登山道整備を続けている地元ボランティア「和久羅会」の羽室仁(はむろ じん)会長(69)が「山頂を見てもらった方が早いから」と案内してくれ、山の南側、和久羅山駐車場のすぐ横から登山道に入った。

 

▷視界が開けて明るく
 登山道は整備されていて、歩きやすい。当たり前だが、登りが続き、途中からは傾斜が急になってくる。運動不足のため、息がきれて汗が出てくる。途中で休憩が必要かと思ったが、案内してくれる羽室会長は慣れているためか、止まる気配はない。ノンストップで30分ほど歩き、頂上に到着した。
 山頂は東西方向に楕円(だえん)型に広がり、広場のようになっている。西側に到着し、汗をぬぐいながら見渡すと、東側と南側には木がなく、視界が開けている。小走りになって南側に向かうと「おー!」。思わず声が出るほどの絶景が目に飛び込んできた。

頂上から見た松江市街地

 眼下に、中海と宍道湖を結ぶ大橋川が一望できる。大橋川の両岸に広がる松江市街地はもちろん、宍道湖全体が見渡せ、遠くには出雲ドームや三瓶山も見える。中海側は、大根島や弓ケ浜半島、日本海、島根半島、雲がかかった大山も見える。
 「大橋川って、こんな感じで宍道湖と中海を結んでいたんだ」「大根島って道路がつながっているけど、やっぱり島なんだ」。地図で見る地形が、目の前に実物として広がる不思議な感覚を経験した。和久羅山は戦国時代、山城が築かれていたという。山城が築かれた山は見晴らしが良く、交通の要衝をすべて見守り、警戒することができると聞いた。この景色なら完璧だ。

 約100平方メートルの山頂広場には看板やベンチが置かれ、山を登った人がゆったりと休憩できるようになっている。西側や嵩山へと続く北側には木々が残っているが、それ以外の部分は視界が開けている。
 登りはじめは雲の多さが気になったが、山頂に着く頃には晴れ間が広がり、白い雲、青空、湖が作り出す爽やかな景色に心が洗われた。晴れた日には国立公園・大山の美しい姿も見ることができるという。

眼下に広がる大橋川

 上から眺めると地形がよく分かり、おもしろい。中海と宍道湖を同時に見ることができる。大橋川は日頃は何となく橋を渡っているくらいで、ゆっくりと眺めることはなかった。上からじっくり眺めると、島のような中州(なかす)が点在している様子が分かる。こんなに中州があり、川幅も広いのか!と新たな発見をした気分だ。

 寝仏山の額がへこんでいるように見えるのは、山頂からの眺望をよくするために、木を伐採したためだった。

 

▷「中海側も見えたら…」の声に応えて
 和久羅山の登山道は1982年に整備され、地元住民だけではなく県内外からも登山客が訪れる。山頂には「登山ノート」が置かれ、登った人の感想や要望が書き込まれている。
伐採前は山頂の四方に木が生い茂り、山頂からは松江市街地が見える程度だった。登山客から「大山、弓ヶ浜、大根島も見えれば…」との要望があったことや、山頂周辺に老木や不要木が増えてきたことから伐採が計画された。

伐採前の山頂の様子

 当初は和久羅会のメンバーで、「境港が見えたら」と機械を担いで登り、5メートルほどの間隔を伐採した。作業は大変だったが、景色の良さに「全体が見渡せたら、すごい景色になる」と、皆が思ったという。
 その後、島根県農林水産部林業課が荒廃林の整備や森づくりなどをサポートする「令和3年度版 県民参加の森づくり事業」に応募し、5月に伐採作業が始まった。造園業者に伐採を委託し、山頂部分の平地100平方メートルとその周辺の斜面800平方メートルの老木、不要木、低木類を伐採。7月に作業が完了し、中海側から宍道湖までをぐるりと見渡せるようになった。

中海に浮かぶ大根島

 伐採完了後の登山ノートには「木が少なくなって大根島、大山など中海側がよく見えるようになりました。またこの山の魅力がアップしました。ありがとうございます」「予算が付いたとのこと。山頂からの眺めがすばらしいですね」と、見晴らしの良さを喜ぶ声が多く見られた。登山客と管理者、登山客同士がノートを通じてコミュニケーションを取り合い、つながりをもつ様子に温かみを感じた。

▷手軽に登れて絶景楽しめる
 登山道は階段やロープで整えられ、30~40分ほどで山頂まで登れるため、親子連れも多く訪れる。
 松江市内から親子で訪れていた青砥沙織さん(32)と悠生くん(小学3年生)に話を聞いた。2人は半年ぶりに和久羅山を登ったといい、沙織さんは「視界が広くなり、以前よりも明るくなったと感じます。木が生い茂っていた頃と比べると風通しがよく、虫も少なくなって快適です」と気持ちよさそうに話した。子どもが山登りに飽きないうちに、山頂に着くことができるのも魅力とのこと。

山頂広場に立つ看板

 羽室会長は「見晴らしがよくなったと喜びのコメントが届き、伐採を実行してよかったと思いました。和久羅山は大山などと比べると手軽に登ることができ、山頂から美しい眺めを楽しめます。これからもぜひ多くの人に登山を楽しんでもらいたいです」と笑顔で話した。今後は周辺地域を紹介するパネルを山頂に設置したり、戦国時代に築城された和久羅城の歴史を解説したりと、和久羅山により親しんでもらえるよう活動を続けたいという。

 市街地から眺めているだけでは現地の状況が分からなかったが、実際に山を登ってみると山頂の様子やそこからの眺め、寝仏の額がへこんだ背景を知ることができた。山頂から美しい眺めを楽しむことができ、多くの登山者が訪れるなら、寝仏様も喜んでくれるだろう。長年、登山道を整備し、眺望の優れた山頂を大切にしてきた地元のボランティアメンバーの明るく優しい姿を知ることができ、登山の疲れも癒やされた。