出雲弁の特徴と魅力について話す出雲弁保存会の藤岡大拙会長
出雲弁の特徴と魅力について話す出雲弁保存会の藤岡大拙会長

 「『ちょうかんぼう(腸感冒)』は山陰以外では通じない」というツイッターの投稿に大きな反響があった。投稿したのは島根を舞台にしたテレビドラマ「しまねがドラマになるなんて!」(企画制作・島根県、TSKさんいん中央テレビ、山陰中央新報社、読売広告社)の公式ツイッター。SNS上で「え?!」「標準語と思っていた」など驚きの声が続々と寄せられた。島根県東部を中心に使われる出雲弁の一部は、現代の生活に根付いていて、若い人が標準語と思って使っている言葉がある。出雲弁の今と特徴について専門家に聞いた。(Sデジ編集部・吉野仁士)

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 「しまねがドラマになるなんて!」は1話5分の短編ドラマ。親の転勤に付いて東京から島根に転校した高校生「東(あずま)京子」と、島根で生まれ育った同級生3人組が、さまざまな人と出会い、島根の魅力に気付くというストーリー。ドラマの中では、出雲市のソウルフードのバラパンや地元スーパーといった島根ではなじみのある商品や場所が毎回、登場している。主人公たちの名前は石見、出雲、隠岐と県内の地名が付く。登場人物のセリフでは「何言っちょうや」「聞かんでいいけんな」と出雲弁が使われ、島根県民がにやりとするネタでいっぱいだ。

 「ちょうかんぼう」はウイルスや細菌により、吐き気や下痢、発熱の症状が出る感染性胃腸炎を指す。17日に放送されたドラマの第5話「ちょうかんぼうに花束を」では、ヒロインの東(あずま)京子が「ちょうかんぼう」で学校を休み、主人公たちからおかゆの差し入れをもらうシーンがあった。

ドラマのワンシーン。「ちょうかんぼう」で寝込む東京子

 番組放送前にドラマの公式ツイッターで「『ちょうかんぼう』、実は山陰でしか通じないって知っていましたか…?」と投稿されると、返信欄やつぶやきで「ちょうかんぼうって山陰だけなんだ」「ひょえ〜標準語かと思ってた」「引っ越して来て初めて知った腸感冒」と多くの反応があった。

 つぶやきを身内に共有する「リツイート」が90件、共感を表す「いいね」は200件に上った。多くは「ちょうかんぼう」が「方言だと知らなかった」とする内容で、出雲弁が生活に根付いていることが分かる。東京子役の田鍋梨々花さんは10月の本紙インタビューで、印象に残った方言について、「ちょうかんぼう」を挙げ「島根の方言はかわいいですね」と答えていた。

 

 ▼腸感冒の起源は

 出雲弁の継承と保存に努める、出雲弁保存会の藤岡大拙会長(89)に話を聞いた。藤岡会長は30年以上にわたって同会の会長を務める出雲弁の大ベテラン。出雲市立荒神谷博物館の館長、島根県立大短期大学部名誉教授(出雲学)も務めている。

 藤岡会長によると、腸感冒の明確な起源は分かっていない。感冒は人から人に移る風邪の総称で「感冒という言葉を普通の住民が考えつくとは思えない。(医学が発達した)明治、大正ごろに山陰にいた医者が名付けたのではないか」と推測する。2012年にはテレビ番組「秘密のケンミンSHOW」でも取り上げられ、取材を受けたという。

出雲弁保存会の藤岡大拙会長。発音から単語まで、出雲弁を知り尽くしている。

 ▼「はしる」「はやす」「はげる」どういう意味?

 現在も使われている出雲弁は2500語以上あり、藤岡会長は「方言としては全国でかなり多く残っている方だ」とする。

 語尾に「~けん」が付くのは有名。ほかに日常生活でよく使う出雲弁では「~してごしない(してください)」がある。山陰両県の駅や空港で「また来てごしない!」と書かれた看板や横断幕をよく見掛ける。

出雲弁特有の単語たち。地域や年代によっては分からない単語がちらほら
 

 日常生活でよく使われる代表的な出雲弁。
「せつい(つらい)」「えなげ(変)」「おべた(驚いた)」「おぞい(怖い)」「あだん」(あらまぁ)

 「はしる」は標準語では「走る」という意味だが、出雲弁では「痛い」になる。県外で「歯がはしる(痛い)!」と言っても、周囲にはけげんな顔をされることだろう。木のとげを指す「しばり」も有名だが、他の地域では通用しない。幼少期から何回言ったか分からない「しばりが刺さった!」は、出雲弁圏限定の言葉だった。ちなみに「しばり」は指などにとげが刺さった時のみの呼称で、通常のとげはそのまま「とげ」と呼ぶらしい。

 このほか、包丁で切るという意味の「はやす」、帽子などを頭にはめるという意味の「はげる」は、出雲弁圏外では誤って伝わるか、笑われるだろう。

 使用場面は限られるが、今でも一部で使われている言葉。
・腫れ物を破ってうみを出す「あやかす」
・嫁が無断で実家に帰る「えでほる」
・生魚に酢を掛けて白くなる「はしれる」

 藤岡会長は「昔から出雲地方は日本海と中国山地に挟まれた閉鎖的な地域だったことから、生活に密着した方言が現在まで長く残っている」と解説した。

 ▼効率的な独特の発音

 藤岡会長によると、出雲弁は独特な発音も特徴的だ。多くは母音のイ段音がエ段音に、ウ段音がオ段音に変換される。岩や銭は「えわ」「ぜね」、ウシやタヌキは「おし」「たのき」。ほとんどの言葉に抑揚がないのもポイントという。

 サ行やタ行の言葉はほとんどにイが絡む。「寿司(すぃすぃ)」「松江(まつぃえ)」など。特にザ行やダ行はズィに変わる音が多いため、東北のズーズー弁に近いと言われている。饅頭は「まんずぃー」、重箱は「ずぃーばこ」。数珠は「ずぃずぃ」とあまり原形を保っていない。

出雲弁の五十音図。図を参考に、出雲弁独特の発音をマスターしよう
 

 藤岡会長によると、出雲弁の独特な発音は、舌の動きを最小限にして、楽に発音できるように効率化されたからだという。楽な発音と抑揚のない言葉にすることで口調が穏やかになる。閉鎖的な社会を生きていく上で、住民同士の衝突を避ける知恵だったのかもしれない。「言葉の抑揚が少ない分、出雲の人々は表情が豊かで、相手の表情から機嫌を読み取る感性にたけている」(藤岡会長)。出雲弁には地域の深い歴史がある。

 テレビドラマで方言に注目が集まることに藤岡会長は「出雲弁に光が当たるのはありがたい。最近のテレビでは論理的にハキハキ話す人が好まれるようだが、出雲弁のように穏やかな語り口調が全国に広まるよう活動を続けたい」と喜び、出雲弁がよりメジャーになるよう保存会の今後の活動に意欲を示した。

 

 安来市出身の記者にとって、出雲弁は祖父母の世代が話すのを聞く程度だった。昔はよく好き勝手をしては「つばえるな(はしゃぐな)」と怒られたことをふと思い出した。藤岡会長に話を聞きながら、実際に出雲弁を口に出して話してみると、確かに発音しやすいと感じた。家族や地元の友人たちと話す時は、意識して出雲弁を使うようにしてみたい。