内閣府は中長期的な財政の姿について、政府の経済活性化策が功を奏すれば基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の黒字化が可能とする新たな試算結果を発表した。これを受けて岸田文雄首相は2025年度に収支を黒字化する政府目標の維持を表明した。
高齢化による社会保障費の急増と景気刺激のための財政支出を重ねた結果、借金である国債を中心に日本の長期債務残高は22年度末で1243兆円に達する見通しだ。
主要国最悪の財政状態にあるだけでなく、将来に対する国民の不安の大きな原因となっており、改善は待ったなしだ。
PBは社会保障や公共事業など政策の経費を、借金に頼らず税収を中心に賄えているかを示す指標で、その黒字化が財政再建の第一歩と言える。
ところが内閣府の見通しは、高い成長に加え、常態化している補正予算を使った歳出追加を想定しないなど楽観的な前提で試算されている。
現実感に乏しいこれらの楽観を排さなければ財政健全化へ向けた政府の真剣度を国民は信用しないだろう。その上で岸田首相には、政府による健全化の取り組みに客観性を持たせる仕組みの導入を考えてもらいたい。
試算の国内総生産(GDP)成長率は名目3%、実質が2%程度と高い伸びを前提にし、26年度にPBが2千億円の黒字になるとの結果になった。新型コロナウイルス禍でも好調な税収を反映させたためで、昨年7月の前回試算から黒字化は1年前倒しとなった。
健全化目標の25年度はなお1兆7千億円の赤字見通しだが、政府は「目標は(歳出抑制の)取り組みを強化することで実現可能」(山際大志郎経済再生担当相)としており、岸田首相はその維持を強調した。
財政健全化について政府は菅義偉首相だった昨年6月、骨太方針にコロナの影響を本度内に検証して目標年度を「再確認する」と記述。目標の見直しや先送りに含みを持たせたとみられていた。
岸田首相としては予想以上の税収好調に救われた格好と言えるが、税収を左右しやすい名目成長率が3%を超えたのは20年度までの20年間で1度しかない。今回の試算をうのみにするわけにはいくまい。
むしろ現実味があるのは、日本の実力に近い低めの成長率を前提にしたもう一つの試算の方だ。その場合、25年度で4兆7千億円の赤字を計上し、試算最終年度の31年度でも黒字化はほど遠いとの結果になった。
財政再建には防衛費をはじめ聖域なき不断の歳出改革が不可欠だ。加えて政府には、健全化の取り組みを客観的に検証し、国民や金融市場の信頼感につなげるための独立機関の設置を求めたい。欧米では既に制度化されており、政府や党派から距離を置き財政の現状や見通しを点検・提言することで、信頼の醸成に役立っているからだ。
夏の参院選を前に、追加の財政支出を求める声が与党からは出てこよう。コロナ禍で苦しむ家計や事業者への支援は当然である。だが、補正予算などで手当てした子どもへの10万円給付のようなばらまきを、歓迎している国民ばかりではない。
ばらまきの財源となる借金が子どもたちにツケとして回り、かえって国民の不安や不満を高めている点に政治家は目を向けるべきだ。