コロナ禍の前、石見のJR山陰線を走る豪華寝台列車「瑞風(みずかぜ)」に歓迎の手を振る地元の人たちを見て複雑な思いがした。三江線が切り捨てられた地で、通過するだけの観光列車をあがめるその手には、地域振興への切なる願いが込められていた▼2023年度でトロッコ列車が終わる木次線の将来が不安視されるが、山陰線も安泰ではなさそうだ。JR西日本が、不採算路線見直しの目安とする輸送密度(1日1キロ当たり平均乗客数)「2千人以下」に山陰線の出雲市-益田間も当てはまる。石見は全てだ▼2年連続の赤字となったJR西は経営環境の厳しさを強調する。人口減少が進む地域は利用も減る。昭和のうちに山陰新幹線が通っていたら状況は違っただろうか。ここは「新しい資本主義」の出番かも▼根底にあるのは変わらぬ東京一極集中。コロナで鈍化したとはいえ、各地から人を吸い上げる。地方は、政治の力で是正をと叫びながら東京育ちの世襲議員を地元選出として送り出すところもある▼格差は維持され、活力の衰えた地方はある種の国策の受け皿になりうる。原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定の文献調査に、北海道の2町村が手を挙げたのは記憶に新しい。当地の原発は再稼働の是非が問われる。事故の不安よ「さようなら」と手を振りたい人もいれば、経済効果を期待して歓迎の手を振る人もいる。(輔)