JR木次線の宍道―出雲横田駅間に、山陰線を走る観光列車「あめつち」の導入が決まった。トロッコ列車「奥出雲おろち号」の2023年度での運行終了が発表されて以降、存続を望んだ沿線自治体にとって、満額回答ではないが、今後の路線振興に活用できる余地は残った▼とはいえ、木次線の現状は厳しい。20年度の輸送収入は前年度比約4割減の3500万円。1キロ当たりの1日平均乗客数を示す輸送密度は全線で133人。出雲横田―備後落合駅間に至っては18人にとどまる▼故・田中角栄元首相の「日本列島改造論」(1972年発行)は地方路線に言及。北海道が明治期から人口が増加した要因に鉄道の存在を挙げ、国鉄が莫大な赤字を抱える中でも「鉄道が地域開発に果(はた)す先導的な役割はきわめて大きい」と指摘した▼50年後の現在、人口減少にコロナ禍も加わった。都市部の在来線や新幹線の収益で地方路線を支えるというJRの収支構造は揺らぐ。JR西は22年3月期の連結決算で2年連続の赤字を見込み、不採算路線の見直しへかじを切りつつある▼木次線の存続自体が目的となり、日常の移動手段確保という本来の意義が薄れていないか。修学旅行で乗ったなど、昔話のために存続するわけではない。観光列車は側面的な活用だ。早急に観光列車だけに頼らない振興策を考えなければ、JR西が大なたを振るうのが目に見えている。(目)