新型コロナウイルスの感染が拡大してから、山陰でもいろいろな自動販売機が登場している。焼き芋やスイーツ、コンビニ、牛肉…。対面せず、接触がないので購入者に安心な販売形式として、話題性のある自販機が次々と登場している。一方で、観光施設や会社内に従来から設置された飲料自販機の販売は厳しくなっているという。飲料自販機業界の現状を聞いた。(Sデジ編集部・吉野仁士)
新しい自販機は対面での接客より安心して購入してもらいたいと導入されている。設置する側にとっては、接客の必要がなく、店舗の営業時間外はもちろん、24時間での対応もできるメリットがある。
精肉店や焼き肉店などを運営する、あかまる牛肉店(倉吉市福庭町2丁目)は2021年8月、真空パックに入れた牛肉やハンバーグを取り扱う自販機をハワイ店(鳥取県湯梨浜町田後)に設置した。密を避けながら購入できる利便性と、自販機で牛肉が買える物珍しさが話題になり、日中はもちろん、午後7時に閉店した後の深夜帯にも多くの利用者がいるという。
自販機の月間売り上げ目標は100万円。今後は自販機商品に店内で使えるクーポンを付けるなど店内への誘客を促す考えで、尾崎篤司店長(44)は「自販機なら入店しなくても気軽に購入できる。来店増につながるような仕掛けを考えていきたい」と話した。自販機により、新たな需要を取り込み、ビジネスチャンスを広げている。

▼飲料の出荷数量、毎月前年比の1割以上減
自販機と言えばジュースやコーヒーといった飲料が元祖。コロナの感染拡大により特に飲料自販機の現状が厳しい。
飲料市場を調査する飲料総研(東京都)によると、自販機の2021年の飲料出荷数量は、コロナ前の19年と比べて、7月(5%減)以外は毎月10%以上の減。最も下がったのは5月の27%減、8月が次いで23%減だった。

山陰で自販機のオペレーター業を展開する「ビーハート」(松江市東朝日町)の庄司慎平社長(36)は「通常は連休や夏の時期に飲料の出荷が増える。コロナ禍で両方の要素が無かった分、特に下がり幅が大きかった」と話した。同社は中海圏域を中心に、公園や道路、公共施設に自販機850台を設置する。
自販機のオペレーターは路上や観光施設内へ自販機を設置し、管理も担う。自販機の設置先を観光施設や会社と交渉し、コカ・コーラやサントリーといった飲料メーカーから自販機を借り受けて設置する。オペレーターは、ジュースやコーヒーなどの飲料をメーカーから仕入れ、自販機へ補充する。毎月の売り上げの一部を場所代として設置先に支払っている。
山陰両県の自販機オペレーターは大手メーカーの子会社を含め、約10社あるという。
▼人の動きが売り上げに直結
庄司社長によると、自販機オペレーター業界の売上高は飲料総研が調査した飲料の出荷数量の減少幅とほぼ同じ状況という。ビーハートでは、コロナ流行に伴う初の緊急事態宣言が出された20年4、5月の売り上げは前年同月比40%減で、その後は同20%減が続いているそうだ。
島根県内の別の飲料卸業者はコロナ前の19年と比べ、月の売上額が現在も毎月10~20%減という。主な設置場所は観光施設や駅。多くの人が感染防止のため外出を自粛し、旅行が減ったため、いずれも利用頻度が下がったという。担当者は「人流が戻らない限り、売り上げの回復は見込めない。現時点では効果的な方策が見つからない」とため息をついた。
24時間営業の自販機コーナーを構える道の駅キララ多伎(出雲市多伎町多岐)でもコロナ以降、来客数の減少に伴って自販機の売り上げも減少したという。

飲料自販機を設置する際、施設の利用人数や会社の社員数、周囲の人通りを事前に調べるという。自販機の売上額のめどを立てた上で、売上額の何%を場所代とするかを決めて設置先と契約する。目算が狂うと、設置会社の取り分が減ってしまう。
感染拡大により、多くの人は密集を避けるようになった。外出する人が減り、観光や公共施設のように人が集まる場所の利用は激減した。地域で感染者があり、緊急事態宣言が出されたことで、施設そのものが閉鎖され、人の出入りが全くなくなるという事態もあった。
人が集まる場所の自販機は影響が大きい。庄司社長によると、売上額が激減した自販機の設置先は学校、スポーツクラブ、公共施設、観光地がほとんどだという。屋外の自販機にも影響はあったが、減額幅はそれほど大きくなく、庄司社長は「屋外の自販機は非対面、非接触の利点を感じてもらえたのかもしれない」と分析する。
▼新様式にも売り上げ減の要因
感染拡大の影響で、社会に誕生した新様式が、出社せずに自宅で仕事をする「リモートワーク」。感染予防の観点では効果のある対策だが、自販機業界からすると、売上額の減少が加速する要因の一つ。
社員が出社しなくなると、当然、会社内の自販機を利用する人はいなくなる。結局、施設や観光地の自販機と同じく、設置当初の売り上げのめどを下回ってしまう。感染対策が徹底されればされるほど、飲食業界と同様に自販機業界の状況は厳しくなる。

大手飲料メーカーの中四国支社によると、同社製飲料の山陰両県の自販機売り上げは、コロナ前の19年と比べて毎月約20%減が続くという。同社の担当者は中四国の中で、特に広島市といった都心部の売り上げ減はさらに顕著だといい「社員数が多い大企業は出社人数を絞るため、飲む口そのものが減った。スーパーやコンビニなどの家庭用飲料は比較的好調だが、自販機飲料はずっと厳しい」と話した。
山陰両県は車での通勤が多いため、通勤での感染リスクが低く、リモートワークによる売上額の影響は少ない方だという。広島県の同業他社から聞く話しは「悲惨な状況」(庄司社長)だという。庄司社長はリモートワークが重要な感染対策なことを理解しつつも「コロナになって以降、自販機オペレーターとしてプラスだった要素は無い。今後も現状が改善されるめどは立っていない、耐えるしかない」と肩を落とした。
新型コロナウイルスの感染拡大を機に、自販機を新しいビジネスチャンスとして利用する所がある一方、自販機業界の事前契約や仕入れ形態によって、苦境に立たされた所もある。自販機を利用するのは人。人の移動の自粛や制限によって、身近な飲料自販機が大きな影響を受けていた。