「勝者は後になって我々が真実を語ったか否かについて問われはしないであろう。戦争を開始し、戦争を遂行するに当たっては正義など問題ではなく、要は勝利にあるのである」。ドイツのヒトラーは、ポーランド侵攻前にこう宣言したそうだ。日本にも「勝てば官軍」の言葉がある。しかし内心ではそう計算していても、それを公然と断言するリーダーは数少ない▼「プーチンの戦争」と言われるロシアのウクライナ侵攻から明日で4週間。「北大西洋条約機構(NATO)の拡大は自国の脅威」という理屈付けのようだが、それで隣国への侵略行為が正当化されるわけではない。まして原子力発電所への攻撃や占拠は世界を震撼(しんかん)させた▼国際社会では「常軌を逸している」「正気とは思えない」など、プーチン大統領の精神状態を不安視する報道さえ見受けられる。それが計算ずくの「マッドマン・セオリー(狂人理論)」と呼ばれる戦術なのかどうか▼ニクソン元米大統領がベトナム戦争時や当時のソ連との交渉で使ったとされるこの外交戦術は、相手に「核の使用」や「世界を破滅させることも辞さない」強硬姿勢を見せることで最大限の譲歩を引き出すのだという。いわば「禁じ手の威嚇戦術」のようなものだ▼それを倣ったかのような今回のプーチン氏の言動。ヒトラーがいなくなっても「核」がある限り、そんな「脅し」が繰り返される。(己)