<スプーンにうつりし顔も四月かな>皆吉司。国内外が混沌(こんとん)とする中で新年度が始まった。朝食のスプーンに映る表情が、いつになく引き締まった新社会人も多いだろう。三十数年前のわが身を思い出す▼表情を引き締めるのは新社会人だけではない。周りを見渡せば、家庭の事情で新聞社を辞めた同僚をはじめ、新年度を機に新たな道へ歩み出した知人もいる▼仕事で10年来の付き合いがあり、ふるさと島根定住財団を3月末で退職した森山忍さん(46)=松江市在住=もその一人。父親が体調を崩したのを契機に家業のシジミ漁を継ぐという。「許可がなければ(漁獲道具の)鋤簾(じょれん)にさえ触れない。1カ月の修業を経て独り立ちするが、今は不安しかない」と漏らす▼父親も脱サラで家業を継いだ。当時中学生だった森山さんは「1次産業は格好悪いと思っていたし、生活がどうなるかという不安もあった」と振り返る。30年後、財団で地域活動支援に関わる中で後継者難を目の当たりにし、「地域活動支援の実践者として家業を継ごう」と決意。漁は朝が早くても午後は自由な時間が多いだけに、軌道に乗れば財団時代に担当した「NPO支援に携わりたい」と語る▼新社会人や転職者に限らず、節目となる年度初めは気持ちを切り替え、新たなことに挑戦する好機でもある。そう思えばスプーンに映る表情も引き締まるはず。その顔を忘れずにいたい。(健)