「音楽の楽しさを伝えたい」と話す藤重佳久さん=浜田市黒川町、石央文化ホール
「音楽の楽しさを伝えたい」と話す藤重佳久さん=浜田市黒川町、石央文化ホール

 九州で「吹奏楽界のカリスマ」の異名を取り、全日本吹奏楽コンクール全国大会で金賞10回の実績を持つ元教諭の指導者・藤重佳久さん(66)が浜田市にIターンした。浜田高校や市内中学校、一般の指導に当たり、技術向上に努める。島根県で出雲市や川本町に続く「王国」を築くか注目される。 (板垣敏郎)

 藤重さんは、福岡市で吹奏楽の強豪、私立精華女子高校を全国大会の金賞常連校に育てたほか、長崎市の私立活水高校に着任した初年度に全国大会に導くなど手腕に定評がある。

 音楽に関わる若手人材をU・Iターン者として呼び込む活動を始めた「石見音楽文化振興会」(江津市江津町)の招きで移住。浜田市の地域おこし協力隊員の肩書も持ち、市全体の音楽振興に関わる。

 藤重さんは「コンクールは嫌い」という。

 「勝つ人、負ける人が出て負けた方が音楽を続けなくなるのは実に残念だ。仲間と一緒に夢中になって吹くのが、音楽本来の楽しさなのだから」と話す。

 新天地でゼロから始めてみたかったというのが移住の理由。「音楽や生み出す音は地域で全く違う。どう花開くか。いいものができたらいい」と心境を語る。

 3月末に浜田市内で指導を始めた。車移動が中心の暮らしに合わせ、最近、運転免許を取得。「音楽の楽しさや、素晴らしさを伝える」と奔走する。

 コンクールは嫌いと言う一方で、演じる生徒らが技術の向上による達成感を得られる面では、大切だとも感じている。

 「コンクールにも出ず演奏会ばかりしていれば、実力はどうなのという話になる。出場して好成績を収めると環境が変わる。楽器も余分に購入できるかもしれないしね」

 ニューヨークのブロードウェイミュージカルを見て感激した。オーディションという競争、厳しい稽古を乗り越えた出演者が、観客の万雷の拍手を浴び笑顔が輝いていた。「私もやるなら、日本一と妥協はしなかった。いい音が合えば演奏者も感動する。響きの追求は楽しく喜びがある」。まずは奏者個々に強い自己表現を求めるつもりだ。