山口県宇部市にあるJR宇部新川駅が活況だ、と大手紙の地方面にあった。浜田市から訪ねた20代男性は「シンジがいるような気がする」。そう、映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』にまつわる話題だ。総監督の庵野秀明さんの故郷の駅が劇中に登場し「聖地」となった▼テレビ版から26年を経ての完結。全国公開された3月8日早朝、東京で暮らす筆者も映画館に足を運び、万感の思いで結末を見届けた。480万人以上を動員し、『鬼(き)滅(めつ)の刃(やいば)』に続いてコロナ禍の業界を牽引(けんいん)する▼映像、アクション、難解な設定など数ある魅力の一つは、心に残る台詞(せりふ)。震災復興に重なる前半の場面でもキャラクターは印象的な言葉を次々紡いだ。<生きることは辛(つら)いことと楽しいことの繰り返し。今をしっかり生きたい>。コロナ禍の私たちへの励ましとも取れ、胸が熱くなる▼より創作欲を高める庵野さん。師匠の宮崎駿さんも80歳にして新作に挑む。宮崎さんと机を並べエヴァにもつながる日本アニメの土台を築いた一人が島根県津和野町出身のアニメーター大塚康生さんだった。「伝説の人」は3月、89歳で人生の幕を閉じた▼手掛けた『ルパン三世』などの絵を紹介する町内のパネル展は追悼のため会期を6月まで延長した。アニメーターとしての原点は町で見た機関車。「SLやまぐち号」が走るJR津和野駅も聖地化できないか。淡い期待を抱く。(築)