この人にかかれば、どんなに使い古された表現も劇的に生まれ変わってしまいそうだ。『シン・ゴジラ』に続き、アニメーター庵野秀明さんが脚本を手がけた特撮映画『シン・ウルトラマン』がヒットしている▼56年前にテレビ放送された『ウルトラマン』を現代に置き換えた作品。地球を襲う怪獣は「禍(か)威(い)獣(じゅう)」、宇宙人は「外星人(がいせいじん)」と表現している。確かに「怪しい獣」より「人を威嚇し、禍(わざわい)を招く獣」の方がぴったりくるし、地球人も宇宙人の一種だけに「外の星の人」と区別する方が的を射ている▼CG技術を駆使した戦闘シーンなど映像の迫力と現実性の高さは、表現同様に半世紀前とは比べものにならない。ただ、外星人であるウルトラマンが事故死した男性の体に「融合」し、地球のために外敵と戦う展開は半世紀前のまま▼今回の映画のキャッチコピーは<そんなに人間が好きになったのか、ウルトラマン。>。テレビ版の最終回で敗れて瀕死(ひんし)状態になりながら、人間が持つ自己犠牲の精神に感銘を受け「自分の命を男性に与えてほしい」と申し出るウルトラマンに、助けに来た宇宙警備隊員がかけた言葉だ▼とはいえ、現実社会は目を覆いたくなるほど利己主義であふれている。大義名分も必然性もなく隣国を軍事侵攻する大統領、インターネット上は匿名の誹謗(ひぼう)中傷が絶えない。こんな社会ではウルトラマンに愛想を尽かされてしまう。(健)