出雲市内の高校2年生、藤原柚李(ゆうり)さん(16)は世界を目指している。「ダンサーとして活躍したい」と、市内のダンススタジオで踊っている。卒業後、米ロサンゼルスで踊る姿を思い描きながら。
市内でダンススクール運営などを手がける「OUT CLOUD ENTERTAINMENT(アウト クラウド エンターテインメント)」(森本広樹社長)が昨年9月に設立した総合芸能事務所に、アイドルやタレントを目指す若者とともに在籍している。
同社が今年4月、通信制課程がある滋慶学園高(岡山県美作市)と連携し、通信教育を受けながら活動できる出雲芸能高等学院(出雲市中野美保南2丁目)を開校。藤原さんは、そこで最初の「生徒」となった。
▼新たな受け皿
地方で、ダンスや芸能の道を目指す場合「高校卒業後に都会地へ」というのが通例だった。小学2年の頃にダンスを始め、日本の女性ダンス・ボーカルグループに憧れた藤原さんもそう考え、市内の全日制高校に進んだ。「高校は行かなくてもいいんじゃないか」と思ったこともあったが、不確実な先々のことを考え、思い直した。
すぐに後悔した。進学クラスとなり、勉強、テストに追われ、夜はダンスのレッスンという高校生活。授業中も、ダンスのことが頭から離れなかった。
この春、出雲芸能高等学院が開校し、夢への進路を修正。「転入」を決めた。両親も「やりたいことをやったらいい」と言ってくれ、平日午前は自宅で教科書を開き、午後はダンススタジオで練習という毎日が始まった。
通信制という選択肢が「学び」と「夢」をつなぐケースが、実は、全国的に増えている。文部科学省の学校基本調査によると、全日制・定時制の生徒数は1990年ごろをピークに減少する一方、通信制は95年(15万3983人)から右肩上がり。2020年度は初めて20万人を超えた。
通信制課程は1985年ごろは働きながら高校の卒業資格を取るための仕組みと捉えられていた。2000年代は不登校や引きこもりを経験した生徒たちの居場所に。その後、スポーツや芸能活動に力を入れる生徒の受け皿となった。
例えば、プロテニス男子の錦織圭選手(松江市出身)も、海外で活躍しながら青森山田の通信課程で卒業資格を取得。「女子高生ミスコン2021」準グランプリに輝いた島根県出身の福間彩音さんは、滋慶学園3年生として東京などで活動している。
通信制がある島根県内の高校は、県立の宍道(松江市)、浜田(浜田市)と私立明誠(益田市)の三つ。ほかにも、県外に本校があるケースがいくつかあるが、誰もが進学先として選ぶには見えない壁がまだある。就職や進学が難しいイメージが根強いためだ。
滋慶学園の現地拠点・出雲学習センター(出雲市今市町)の山崎岳事務局長は「午前中は勉強して、午後から英才教育をするのが全国の主流」と説明。「選択肢を広げてあげることが大事」と話した。
▼表情生き生き
6月中旬の土曜日の夕方、出雲芸能高等学院のダンススタジオは、ストリート系ファッションの若者たち約20人の熱気で満ちていた。黒塗りの壁に囲まれた薄暗い室内でも、生き生きとした皆の顔は光って見える。
「今やっているのは、はやりのノリのヒップホップ」。スタジオの一般生徒の前に立ち、手本を見せたのは藤原さんだ。
自らカウントし、リズムに乗った動きを見せ、一つ一つ説明。伝えるのは楽しい。「世界のダンサーに自分が考えた振り付けを教えたい」という夢と重なる。背中を押してくれる、見えない力を感じている。
(藤原康平)
=第2部おわり=