渓谷に流れる水をシャワーのように浴びながら登るアクティビティー「シャワークライミング」が近年、人気になっている。夏のレジャーとして爽快感や達成感を味わえるという。島根県飯南町でシャワークライミングができると聞き、体験してきた。(Sデジ編集部・宍道香穂)
▷シャワークライミングとは?服装や持ち物を紹介
飯南町シャワークライミングは毎年6月から9月にかけて、飯南町を流れる小田川、程原川など4か所で実施している。身長130センチ以上で参加できる。
当日、ウエットスーツやヘルメット、沢靴、ライフジャケットといった必要な装備を借りて着用する。自分で用意しておくのは、ウエットスーツの下に着る水着やアンダーシャツ、スパッツ。なるべくぴったりとしたサイズで体にフィットしているものを用意しよう。
濡れてもいい靴下も履いておく。シャワークライミング用の貸し出しシューズはつま先の部分が足袋のように二つに分かれているため、靴下は2本指か5本指タイプがお薦め。岩でけがをするのを防ぐため、手袋(グローブ)もあると安心だ。
そのほか、体をふくタオルや着替え、眼鏡を付けている人は紛失防止のためにゴーグルを用意する。
▷いざ体験
国道54号線沿いの道の駅「赤来高原」(飯南町下赤名)で飯南町観光協会観光運営部門の伊藤和栄(かずひろ)マネージャーと合流し、ウエットスーツと沢靴といった必要な装備を借りて着用。今回、シャワークライミングを体験する程原川へ向かう。車で約10分走り、スタート地点に到着した。四方を緑に囲まれ、道の下を見下ろすと、ごつごつとした岩の間をきれいな水が流れている。

体験の前に準備運動をする。渓谷を登る時は不安定な足場が続くため、ねんざなどけがをしないよう足首を念入りにストレッチする。足や肩、首のストレッチを終えて、貸し出されるヘルメットとライフジャケットを身に着け、いざ川へ。
当日の気温は27度。雨は降っておらず少し暑いほどだったが、川に足をつけると「冷たい!」。つま先、足、腰と水につかるにつれて、ひんやりとした感触が全身に伝わる。こんな冷たい水の中でアクティビティーを楽しめるのだろうか…と心配していると、伊藤さんは「ウエットスーツに水が浸透すると体温で温められ、保温効果が出てきます」と教えてくれた。寒いのがずっと続くわけではないのだと一安心。確かに、水につかってから数分が経つと寒さを感じなくなった。

▷川の流れに逆らい登る
「行きましょう」と沢をずんずん進んでいく伊藤さんの後に続き、登っていく。川の流れに逆らいながら、ごつごつとした岩に手や足をかけて登るのは想像以上に体力を使う。
伊藤さんは「登りながら、好きなタイミングで水につかって涼むことができるのがシャワークライミングの面白さ」と説明してくれた。不安定な足場で全身の力を使って岩を登り、息が上がったり暑くなったりするが、水に飛び込み、ぷかぷかと浮かんでいると心地良いひんやり感が伝わり癒される。さきほどまで寒さに震えていたのがうそのようだ。
岩はコケやぬめりなどで滑りやすいため注意が必要。ライフジャケットやヘルメット、ウエットスーツで体が保護されているため不安になりすぎる必要はないが、伊藤さんは「滑ることを前提に歩くことがポイント」とアドバイスした。転ぶときは前ではなく後ろへ、受け身を取るようにすると良い。確かに「滑るかもしれない」と思いながら歩くと、転ぶ時も素早く対処できて、けがにつながりにくいと感じた。

▷滝が注ぐ「プール」で飛び込み
岩を登ったり水にダイブしたりして進み、最終地点に到着した。崖に囲まれた大きな水たまりのようになっていて、正面に高さ2メートルほどの滝が注ぎ込んでいる。「プール」と呼ぶ場所だ。滝の下は底が深く、足がつかないが、ライフジャケットのおかげで水に浮くことができる。足がつかない場所でぷかぷかと体を浮かべていると、まるで無重力空間にいるような不思議な感覚。自然と頭の中から雑念が消え、穏やかな気持ちになる。

「だいたい終わりか…」と少しさみしく思っていると「ここは深さが十分にあるので、飛び込みも楽しめます」と伊藤さん。伊藤さんの後を追って岩を登り、滝の横に立つ。さきほど泳いでいた岩のプールを見下ろし「意外と高いな…」と思っていると伊藤さんが勢いよくジャンプし、ドボーンと飛び込んだ。

「鼻から水が入らないように、つまむか、息を吐きだして!」と、伊藤さんにアドバイスを受けながら、飛び込み位置に立つ。水面まで1メートル以上はある。高い場所から飛び降りる機会はそうそうない。大丈夫だろうか、うまく飛び込めるだろうかと、さまざまな不安で足がすくんだが、早く飛び込まないとどんどん怖くなると思い、意を決してジャンプ。体がふわっと宙に浮かび、ざぶん!と水しぶきが跳ねる。「やったー!」恐怖を克服した達成感と爽快感に包まれる。海で飛び込みをすることはたまにあるが、川でも飛び込みができるのか、新たな発見だった。飛び込む前はかなり怖いが、1回飛び込むと慣れる。飛び込みは子どもたちに大人気というのも納得だ。

伊藤さんは「では次は」と言って、さらに高い位置から飛び込める場所へ。岩を登り、水面から3メートルはある高さ。「え、本当にここから?」と思っている間もなく、伊藤さんが飛び込んだ。「やるしかない」と飛び込む位置に立つとあまりの高さに足がすくむ。覚悟を決めて、飛び込んだ。ザブーン、爽快! 遊園地やテーマパークでは味わえない本物のアクティビティーだ。この自然のプールで、子どもたちは何回も飛び込み元気いっぱいに遊ぶとのこと。人気の秘密が分かった、大人でも十分に楽しい! 高い場所からで怖さはあるが、ヘルメット、ライフジャケット、ウエットスーツを着用しているので、けがの心配もない。
岩を登るだけでなく、高い場所から水の中に飛び込んだり、力を抜いて水に浮かんだりと、さまざまな楽しみ方ができるのがシャワークライミングの魅力なのだと感じた。また、真水は海水と比べて肌がベタベタせず、髪も傷みにくい。木々が日光を程よくブロックしてくれるため、紫外線を浴びすぎる心配がないのもうれしい。

▷新感覚レジャーとして県内外で人気
飯南町シャワークライミングは2018年から毎年夏に開催している。鳥取県智頭町などで同様の取り組みがあり、島根でも県内の自然資源を生かして地域を盛り上げようと始めたという。流れる水を浴びながら体を動かせる新感覚のレジャーとして話題を呼び、昨年は約200人が参加した。出雲、松江、広島を中心に、関西や関東からも問い合わせを受けているという。
シャワークライミングの予約はホームページ内の専用フォームで受け付ける。開催期間中は毎日、午前と午後、それぞれ1回ずつ開催。人数は1回につき2~6人。天候や水量により中止する場合がある。コースは以下の4か所から選べる。
① 小田川(島根県飯南町)
最も初心者向けのコース。ほかのコースと比べて川幅が狭く、小さい子どもでも安心して登ることができる。家族連れにおすすめ。料金は一人4000円。
② 程原川(同)
初級~中級のコース。小田川と同じく川幅が狭いため、子ども連れも安心して楽しめる。4コースの中で最も高さのある飛び込みスポットがあり、大人も十分に楽しめる。料金は一人4000円。
③ 八重滝(雲南市)
一番人気のコース。川の中の傾斜面を滑って遊ぶ「ウォータースライダー」スポットが2か所あり、緩やかな斜面と急斜面の両方を楽しめる。料金は一人6000円。
④ 波多川(出雲市)
主にクライミングを楽しめるコース。思いっきり体を動かしたい人にお薦め。途中に広い水たまりのような、通称「巨大プール」がある。上空が開けたコースで水面に日光が届きやすく、温かい。料金は一人6000円。
実際に体験してみて、シャワークライミングは体全体の筋肉を使いながら運動ができるほか、頭を空っぽにして水に浮かんだり、泳いだり、飛び込みやスライダーでスリルを味わえたりと、さまざまな楽しみ方ができるのが魅力だと感じた。「三密」を避けたレジャーとしてアウトドア活動の人気が高まる中、シャワークライミングは大人から子どもまで楽しめる、夏休みにぴったりの遊びだと思った。