数年前、政府の国会答弁を揶揄(やゆ)した「ご飯論法」が話題になった。「朝ご飯を食べたか」という追及に対し「ご飯(米)は食べていない」(パンは食べたかもしれない)と回答をはぐらかす手法だ▼思わず「座布団一枚!」と言いたくなるようなネーミングだ。「ご飯」は「炊いた米」の意味と、食事全体を指す場合の両方に使われるからだ。例えば、食事の準備ができたら「ご飯ですよ」という言い方をする▼世界の食に詳しい石毛直道さん(元国立民族博物館長)によると、同じような言葉の使い方は、中国や朝鮮半島、東南アジアにも見られ、稲作民族の食事では主食である米がいかに重要であるかを物語っているのだそうだ▼また日本の食事では、同じ内容の副食物でも、酒が主役の場合は「さかな(肴)」と呼び、ご飯が主役のときは「おかず」になる。同じ米から作る日本酒と飯は、昔から互換性がある食品と思われていたらしく、今でも同時には摂取せず、ご飯の番は酒が終わってから▼ご飯は炭水化物やタンパク質、ビタミンなどを含む栄養食であることに加え、食卓の国際化も可能にしたのだという。パンのときの副食は洋風料理がほとんどなのに対し、ご飯の場合は副食が洋風、中華風など対応の幅が広いためだ。消費の減少が指摘されるご飯だが、小麦など食料品の値上げラッシュが続く今こそ、主食である意味を見直す好機でもある。(己)