数カ月に1度の楽しみは近くのAコープで「奥出雲和牛」のロース肉を買うこと。家族で舌鼓を打つと、肉のおいしさにつられて会話も弾む▼そんな奥出雲和牛の行く末が不透明だ。JAしまねが島根県内にある和牛の5肥育センターの運営から撤退する方針を固めた。事業譲渡も視野に入れているという。奥出雲和牛は2センターがある雲南市と奥出雲町、飯南町で生まれ肥育された和牛肉を指す▼3市町がある奥出雲地方では昔、たたら製鉄でできた鉄を運ぶため牛馬を飼った。奥出雲町が登録を目指す世界農業遺産の特徴の一つに鉄の運搬を担った牛を改良した和牛を挙げる。登録で世界から注目される可能性も秘める中、今後の動向に注目が集まるのは必然か▼かつて島根県内に優秀な種雄牛がいた。「第7糸桜号」。和牛王国として県の名を全国にとどろかせる礎を築いた。センターの撤退方針は、続く赤字と飼料高騰のためとはいえ、第7糸桜号が生まれた奥出雲地方から肥育センターをなくしてほしくない▼肥育農家だった実家の床の間に、牛馬市で栄えた大山寺(鳥取県大山町)にある宝牛に似た像がある。祖先の思いを象徴してか何枚もの座布団を敷いている。楽しみに待つ消費者と座布団に願いを込める農家のためにも、早急に方向性を示してほしい。中ぶらりんのままでは、たたら製鉄の時代から積み重ねる島根の和牛の歴史が泣く。(目)











