政府は、低所得世帯への5万円給付を含む追加の物価高対策を決定した。高値が続くガソリン、輸入小麦、飼料の価格抑制策を延長するとともに、地方自治体の対策資金となる地方創生臨時交付金に6千億円を追加した。新型コロナウイルス対策費と合わせて3兆円超を予備費から支出する。

 インフレの長期化で、家計や中小事業者の負担軽減へ切れ目なく手を打つことは大切だ。特に低所得世帯は食品や電気・ガスの値上がりの影響を受けやすく給付金の支給は理解できる。

 しかし、これまでの対策の効果と課題の検証を忘れてもらっては困る。一時しのぎの対症療法を重ね、安易な財政支出としないために「出口」をしっかり議論すべきだ。

 消費者物価指数(生鮮食品を除く)は7月まで11カ月連続で前年同月を上回った。新型コロナからの各国の回復にウクライナ危機、円安が重なり、原油や穀物など原材料が高止まりしているためだ。食品を中心に秋以降の値上げ予定も多い。

 物価の沈静化が見通せない中でまとめた今回の対策は、既存策の継続が目立つ。典型はガソリンなどの燃油価格を抑える補助金で、期限を9月末から12月末へ延長した。家計や企業への影響の大きさが理由だが、政府は問題の多いこの施策をいつまで続ける気なのか。

 補助金の恩恵が車利用者に偏る上、かえって余暇のガソリン消費を刺激し、省エネや脱炭素に逆行。しかも1月に始まった補助策は拡充や延長の結果、今月末までに約1兆9千億円の巨費を投じる事態となっている。

 ドイツが導入した公共交通機関の格安チケットのように、脱炭素と電車などの利用促進を同時に目指す仕組みを日本も検討すべきだろう。

 輸入小麦については、政府から製粉会社などへの売り渡し価格を10月以降も据え置くと決めた。2割ほどの上昇が見込まれたためだが、製品段階では電気代や人件費が加わり、価格の抑制効果は限られる。例えば食パンの場合、小売価格に占める小麦の割合は8%に過ぎないという。それでいながら対策には半年で約350億円の費用を要すると見込まれる。

 小麦対策と並行して、コロナ下の外食不振で落ち込んだコメの消費拡大に改めて力を入れる良い機会であろう。

 地域のきめ細かな対策が可能なのは自治体であり、増額された交付金の有効活用を期待したい。

 財務省によると、これまでの交付金枠にはほぼ全自治体から申請が寄せられ、生活困窮者や子育て、学校給食、農漁業者への幅広い物価高支援が盛り込まれた。過去には一部に疑問符の付く使い道があっただけに、ここでも内容と効果の検証は不可欠である。

 岸田文雄首相は今回の対策に加え、10月に総合経済対策を策定する方針という。「新しい資本主義」の関連施策などを盛り込む意向とみられるが、国民を苦しめる物価高の抜本的改善には改めて賃上げの実現に取り組むべきだ。昨年度の国内企業の「内部留保」「現預金」は好業績の反映で過去最高となり、従業員や取引先へ還元の余地があることを示唆している。

 輸入コスト増により物価高を悪化させている円安にも手を打つ時だ。背景にある日銀の行き過ぎた金融緩和は、修正の転換点を迎えていよう。