政府・日銀は、外国為替市場で円買いドル売りの為替介入を実施した。円が一時、1ドル=145円台後半と約24年ぶりの水準へ下落したため、これ以上の円安を阻止する必要があると判断した。
最近の急激な円安は原油などの原材料高とともに輸入コストを増やし、企業収益の悪化と家計を苦しめる物価高の大きな要因となっていた。著しい円安の放置は通貨への信認を損ないかねなかっただけに、政府・日銀が遅まきながらその防衛姿勢を明確にした点は評価できる。
だが、そうであれば円急落の根本原因である日銀の金融政策へ目を向けないわけにはいくまい。長年にわたる行き過ぎた金融緩和は限界を迎えており、見直しの時だ。
円買いドル売りの介入は1998年6月以来、約24年ぶり。当時は日本の金融危機やアジア通貨危機が表面化し、円が売られやすい地合いだった。
円の防衛を目的とした今回の為替介入だが、効果は一時的となる可能性を知っておきたい。米国の通貨当局と協調した円買いドル売りではなく、あくまで日本単独の介入とみられるからだ。背景には足元のインフレに対する立場の違いがある。
原油高にウクライナ危機、労働力の逼迫(ひっぱく)などを要因に米国では約40年ぶりの記録的な物価高騰を記録。中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は今月まで3会合続けて政策金利を0・75%ずつ上げる、猛烈な金融引き締めの真っ最中にある。ドル高は米国にとって輸入コストを下げインフレを落ち着かせる効果があるだけに、ドル売り介入に足並みをそろえるのは困難だったもようだ。
ただ、今の為替相場が世界的な「ドル高」局面である点には留意が必要だ。基軸通貨であるドルの金利が急速に上昇している影響であり、ユーロや英ポンドも対ドルでは下落している。
このため米国のインフレが沈静化しFRBの利上げに打ち止め感が表れる時点では、相場の流れが逆転し、円高ドル安となる可能性も十分に意識しておくべきだろう。
世界の中央銀行がインフレ退治で利上げへ動く中で、その流れに逆行しているのが日銀だ。
日本でも消費者物価(生鮮食品を除く)は8月に前年同月比で2・8%と約31年ぶりの上昇率を記録し、日銀が政策目標とする2%を5カ月連続で上回った。だが、日銀は「賃上げを伴う望ましい物価上昇ではない」「為替に対処して利上げすればかえって景気を悪化させる」として緩和方針を変えず、米国との金利差拡大による急激な円安を引き起こしている。
新型コロナウイルスの影響など景気への目配りは大事だが、それと長年の「異常な」金融緩和を「普通の」緩和へ修正することは矛盾しない。
長期金利を無理やり0%程度へ固定するような今の緩和手法は、政府による財政規律を欠いた国債増発を招くなど弊害が大きく、限界と認識しなければならない。
政府が「中央銀行の独立性」を盾に金融政策の責任を日銀に丸投げすることは許されない。
事実上の円安誘導策である今の大規模緩和を、アベノミクスの柱として求めたのが安倍晋三元首相だからだ。安倍氏の下で日銀は共同声明に2%目標を明記させられ、岸田文雄首相もそれを引き継いだ。金融政策への政治責任は当然である。