毎年9月にニューヨークで開かれる国連総会の一般討論は、各国首脳が集まる重要な外交の機会だ。岸田文雄首相は総会での演説で、ウクライナを侵攻したロシアを名指しで非難し「法の支配」の重要性を指摘。国連安全保障理事会改革や「核兵器のない世界」を目指す考えを強調した。ただ、実現に向けた戦略は不明確で、説得力があるとは言い難い。
個別会談では、バイデン米大統領や尹錫悦(ユンソンニョル)韓国大統領との会談が焦点だったが、いずれも短時間の非公式な会談で、特筆すべき成果はなかった。
激動する国際情勢に対応し、軍備を拡張する中国や北朝鮮にどう対処するのか。日本が主体性を発揮する外交の戦略が改めて問われている。
岸田首相は一般討論演説で、ウクライナ侵攻は「国際秩序に対する挑戦」だと批判。国際法の順守という「法の支配」の重要性を指摘し、「力や威圧による領域の現状変更の試みは決して認められない」と強調した。
同時にロシアの侵攻に対して、ロシアや中国が常任理事国である国連安保理が機能していないと指摘し「必要なのは改革に向けた行動だ」として安保理改革の必要性を訴えた。
また、ロシアによる核兵器使用の脅しを念頭に、被爆地・広島出身の首相として「核兵器のない世界の実現に向けて並々ならぬ決意で取り組みを推し進める」と述べた。
首相の問題認識には賛同できる。ただ、その難しい課題をどうやって実現するのか。道筋が描ける具体性は欠けていたと言わざるを得ない。
安保理改革では2024年に開かれる「国連未来サミット」に合わせた交渉開始を提唱した。2年も先の話だ。安保理改革は中ロの同意が必要な、極めて困難な課題だ。来年、広島で開かれる先進7カ国首脳会議(G7サミット)などでも議論を急ぐべきだ。
核兵器の廃絶も唯一の戦争被爆国として主導しなければならないテーマだ。だが日本は核兵器禁止条約を批准せず、6月の第1回締約国会議にも参加しなかった。本気度が疑われよう。
「力による現状変更」に言及したのは中国を念頭に置いたものだ。バイデン大統領は先日、中国が侵攻した場合の台湾防衛を明言したばかりで、その時に日本がどう対処するのかは非常に重要な課題となる。
大統領との会談は、しっかりと意見交換するべき機会だったが、数分間の対話で日米同盟の強化などを確認しただけだった。これでは不十分だ。
尹大統領との会談も約30分と短時間だった。朝鮮半島を植民地化していた時代の徴用工に対する賠償を巡り、日本政府は1965年の日韓請求権協定で解決済みだとして、韓国側に解決策を示すよう求めている。
このため韓国が求めた正式な首脳会談には応じなかった。約30分の対話を日本側は「懇談」と発表、韓国側は「略式会談」と呼ぶなど思惑の齟齬(そご)があらわになっている。
会談では、元徴用工問題などの懸案解決に向けて外交当局間の協議を加速させることで合意した。北東アジアの安定のためには日韓関係の修復は急務だ。日本側からも積極的に打開案を示していくべきではないか。
安倍政権下で約4年8カ月外相を務め、「外交の岸田」を自負する首相の真価が問われている。