武雄温泉(佐賀県)―長崎の66キロを結ぶ西九州新幹線がフル規格で開業した。博多から武雄温泉までは在来線の特急を使い、今後の整備方式は決まっていない。いわば孤立した区間だけの異例の開業と言える。
そうなった理由として、国の調整の失敗が挙げられる。整備新幹線の建設には地元負担がある。開業後は並行在来線の利便性が低下する上に、運行にはさらに負担が求められる。多額の地元負担の割には、整備のメリットが乏しいと佐賀県が受け止めても不思議はない。
政府、与党は2004年、在来線と新幹線の両方を走行できるフリーゲージトレイン(FGT)の導入を決め佐賀、長崎両県の同意を得た。その後、国は技術面から断念、武雄温泉から博多方面の佐賀県の区間もフル規格での整備に傾いている。
これに対し佐賀県が反発、国と協議しているが、整備方式の選定にも入れない。フル規格を選んだとしても完成までには10年、20年の歳月が要るだろう。
整備新幹線のうち北海道の新函館北斗―札幌は、31年春の開業を目指して工事が進んでいる。延長の8割をトンネルが占め、自然界由来の有害物質が入った建設残土の処理が大きな課題である。
青函トンネル内で速度を抑えず新幹線を運行するため、ダイヤを調整してすれ違う貨物列車をなくしている。今後、札幌開業に伴う新幹線の速度アップ、利用増を考えれば、時間調整に加えて新幹線の貨客混載も含めた抜本的な対応が必要だ。
北陸の金沢―敦賀(福井県)は24年春の開業予定。敦賀―新大阪の延伸については与党が23年春の着工を目指す。約2兆1千億円とされる建設費の財源確保のめどは立っていない。
JR東海が進めるリニア中央新幹線の東京・品川―名古屋の開業は、目標の27年より遅れることが不可避だ。
これらの状況下で、自民党は整備新幹線など高速鉄道網に今後10~20年間で総額30兆~50兆円規模を投じるよう提言した。一方、JR側はマイカー普及や人口減少から輸送人員が減り、採算が取れない地方路線の廃止を求め始めた。鉄道網の整備、維持の観点から、ちぐはぐさは否めない。
新幹線の整備もローカル線の維持も、利用者・JR、国、自治体が応分の負担をするしかない。それだけに新幹線の整備を最終決定する際には、JR、国や自治体が事業費を確実に負担できるのか、バス、航空機と競合しても採算が取れるか、地域にメリットがあるのかを、住民も参加して十分に検討する必要があろう。
新幹線を巡っては、現在走っていない山陰や四国でも整備計画路線への格上げを求める動きがある。この際、長期的な視点から新幹線、地方路線も含めた鉄道網全体の在り方について国民的な議論を始めるべきだ。