鳥取県が約3億円で購入したアンディ・ウォーホルの「ブリロの箱」
鳥取県が約3億円で購入したアンディ・ウォーホルの「ブリロの箱」

 芸術運動ダダイズムを先導したマルセル・デュシャンは1919年、レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナリザ」の絵はがきにひげを描き加えた作品「L.H.O.O.Q」を世に出した。その数十年後、ただのモナリザの複製画を発表した。タイトルは「ひげをそったL.H.O.O.Q」▼人を食った話と言うなかれ。現代美術は作品そのものよりも概念に価値がある。デュシャンの発明は既製品に手を加えて新しいイメージを作り出す「レディーメード」。それまでの常識を覆す、本流からの「逸脱」こそが美術の可能性を広げてきた▼鳥取県が2025年にオープンする県立美術館の集客の目玉に、ポップ・アートの巨匠アンディ・ウォーホルの作品「ブリロの箱」(1968年)5点を約3億円で購入したことが波紋を広げている。既製品と何ら変わらないたわしの包装箱がなぜこんなに高いのか、と▼「これは美術か?」との問いは、まさにウォーホルが投げかけた「逸脱」に対する反応だ。作品は木箱にスクリーン印刷したもので彼は絵筆すら握っていない。「作品にどんな意味を込めているか」との質問に「僕の作品は助手が作っているからよく分からない」と答えたとされる▼現代美術によって作家は色彩からも、形からも、題材からも、技法からも、意識からも解放された。その歴史と意味合いを伝えきることで初めて作品は光を放つ。(直)